「夏の庭 The Friends」(湯本香樹実)②

夏の冒険は少年をひとまわり大きくします

「夏の庭 The Friends」(湯本香樹実)新潮文庫

町外れに暮らす
一人のおじいさんを
「観察」し始めた
「ぼく」と河辺・山下の3人。
おじいさんが離婚したのは、
戦争での辛い体験が
原因だったと考えた3人は、
おじいさんの奥さんの消息を
探す決意をする。
さっそく河辺が
電話帳で調べてきて…。

暦の上ではまもなく夏です。
夏はいつでも少年を
ひとまわり大きくします。
そんな夏の少年の冒険物語は、
洋の東西を問わず
数多く創られています。
「トム・ソーヤーの冒険」
「スタンド・バイ・ミー」…。

日本の児童文学では
おそらく本作品が最高傑作の一つです。
私ごときが紹介するまでもありません。
書かれてからもう20年にもなります。
私は3年に1回ぐらいの割合で
読み返しています。
エンターテインメントとして
超一級です。

そもそも夏休みを利用して
おじいさんの「死ぬところ」を
観察するだけでも一つの冒険です。
偵察を続けたり、買い物を尾行したりと、
小学校6年生ならそれだけで
わくわく感いっぱいでしょう。

そして偏屈だったおじいさんと
対等に渡り合うこと自体も冒険です。
ついにはおじいさんの家の
ゴミ出し、草むしり、洗濯物干し、
コスモスの種まき、
いろいろなことを経験していくのです。

でも本作品の最大の冒険は、
おじいさんの別れた奥さん捜しです。
おじいさんから聞いた
「古香弥生」という名前を手掛かりに、
3人は幸運にも見つけ出すことに
成功するのです。

ところがそのおばあさんは
すでに認知症が始まっていて、
もはや昔の事を思い出せないのです。
おじいさんを喜ばせるために
3人が知恵を絞って
考え出した方法とは…。
ぜひ読んで確かめて下さい。
感動のツボを
しっかりと押さえてあります。

前回書いたように、
本作品のテーマは人の「死」です。
最後にはおじいさんは
やはり死んでしまいます。
しかし本作品が
けっして暗いものにならず、
むしろどこまでも
「生」の明るい輝きを放っているのは、
ひとえに少年の冒険物語として
編まれてあるからなのです。

夏の冒険は少年を一回り大きくします。
彼等が成長した証は
最後の一言に集約されています。
「だってオレたち、
 あの世に知り合いがいるんだ。
 それってすごく心強くないか!」

中学校1年生に薦めます。
自分たちと同じ年齢の
主人公たちの冒険を、
しっかりと味わわせたいと思います。

(2019.5.1)

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