「カラマーゾフの兄弟」(ドストエフスキー)③

第3部は受難の冒険の物語

「カラマーゾフの兄弟1~5」
 (ドストエフスキー/亀山郁夫訳)
  光文社古典新訳文庫

恋人・グルーシェニカを巡って
ますます父・フョードルと
険悪になっていく
長兄・ドミートリー。
彼は事態打開のために
金策に走り回るが、
どこに行っても断られ続ける。
そんな中、フョードルが
何者かに殺害され、
彼に嫌疑がかかる…。

大長編の「カラマーゾフの兄弟」、
その三兄弟の中でも最も目立つのが
長兄・ドミートリーです。
何しろ父親殺しの疑いをかけられ
逮捕されるのですから。
しかし、目立っている理由は
それだけではありません。

やることなすことが破天荒です。
はっきり言えばやくざもの。
キレると誰彼かまわず暴力に訴える。
感情が表に現れやすく、
怒ったかと思えば
次の瞬間には泣いている。
金が手に入れば
一夜でぱっと使いまくる。
そのあとは一文無し。
自分の行動に見通しもなく、
28歳という年齢でありながら
最も幼稚に思える人物です。

彼について最も詳しく
書き表されているのは第3部です。
中盤あたりまでは
ドミートリーの人物像について
幻滅させられ通しです。
しかし、それ以降を読み進めるうちに、
その印象は大きく転換していきます。

彼は純真な性格であり、
自分の良心に対して
正直な人間なのです。
それゆえ怒りを抑えることも
感情を押しとどめることもできず、
ストレートな表現に
走ってしまうのです。

父・フョードルに金を要求したり、
多方面に金策に走り回ったり
するのですが、
彼は金が欲しいのではありません。
自身の誇りを取り戻すため、
そしてグルーシェニカとの恋愛に
決着をつけるために
3000ルーブルが必要だったのです。

法律に対してではなく、
そして世間に対してでもなく、
彼は神に対して
潔白であろうとしているのです。
だから1500ルーブルの大金を
隠し持っていても
それに手をつけることが
できなかったのです。

540頁と分量は大きいものの、
手に汗握るスピード感があり、
一気に読み進めてしまいました。
子どものように純白で、
神の存在を信じ、自分の感情に
正直に生きているドミートリー。
気がつくと、読み手はすっかり彼に
感情移入してしまうはずです。
第3部はまさしくドミートリーの
受難の冒険の物語と言えましょう。
読み終えたとき、「カラマーゾフ」は
こんなに面白い作品だったのかと
唸らずにはいられないはずです。

(2019.5.8)

David MarkによるPixabayからの画像

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