何度読んでも涙が溢れてしまいます
「飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ」
(井村和清)祥伝社黄金文庫
何度読んでも涙が溢れてしまいます。
特に病と闘ってしっかりと
生き抜いた人たちの記録には、
いつも泣かされています。
これまでも
「ガンに生かされて」(飯島夏樹)や
「電池が切れるまで」(すずらんの会編)
などを読み、深い感銘を受けました。
本書はそうした闘病記の
先駆け的存在なのではないかと
思うのです。
世の中に闘病ものは数多くあります。
しかし、闘病者が未来を嘱望された
有能な医師であること、
自分と同様の死期が迫った
患者のケアを最優先させた姿勢、
亡くなる際、妻の胎内に
「まだ見ぬ子」がいたこと等々、
状況が際立っています。
そうした経緯もあったのでしょう、
私が中学生の頃、話題になりました。
高校生の頃は、映画が制作されました。
名高辰郎と竹下景子だったでしょうか。
さらに数年前、TVドラマでも
放映されたかと思います
(確か稲垣吾郎主演)。
実はそのときに文庫本を買って
読んだのが初めてでした。
改めて読んでみると、本作品には
3つの特徴があることがわかります。
まず、医師として
患者を第一に考える著者の姿勢が、
文章の隅々から
感じることができる点です。
その度に涙がこぼれてしまいます。
詳しくは述べません。
ぜひ読んでみて下さい。
次に、著者の死生観が
至るところに現れている点です。
他の人のために生きる、
思いやりをもって生きる、
という「生きるということ」、
そして私たちはすべて
死刑囚のようなものであり、
いつか必ずそれは執行されるのである、
という「死ぬということ」について
考えさせられました。
そして親への感謝、子どもへの愛情が
いろいろな形で
表されているという点です。
自分はこのようにして愛されている、
その感謝が
しっかりと伝わってくるのです。
自分はこれだけ
親の愛情に報いているか、
これだけ子どもに愛情を注いでいるか、
自問を余儀なくされます。
本人の原稿に、
手紙や母親の手記等も加えて
完成しているため、出版物としては
完成度が今一つなのですが、
だからこそ当時の様子が
臨場感をもって
読み手に迫って来るのです。
核家族化が進み、
人が死ぬ場面に立ち会う機会が
少なくなった現代の子どもたちに
ぜひ読んで欲しい一冊です。
※本書は祥伝社黄金文庫から
2019年現在でも絶版にならずに
継続して流通しています。
出版社の良心を感じます。
(2019.5.17)