「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎)④

漫画ではなく、原作を読んで欲しいのです。

「君たちはどう生きるか」
(羽賀翔一)マガジンハウス

本書を取り上げた前回の文末で、
「これでいいのかなと、
いろいろ考えてしまいました」
と書きました。
いくつか違和感が残ったからです。

違和感①
「あっという間に読み終えて」
いいのだろうか

原作は小説というよりも、
子ども向けの哲学書だと考えます。
すらすら読むようなものではなく、
ところどころで立ち止まって
考えながら読むべき本だと思うのです。
筋書きを凝縮させた分、
そのポイントまで
削がれてしまったように感じました。

違和感②
登場人物のキャラクターが
固定化されてしまった

原作は小説ですから
登場人物の顔は見えません。
だから自分の頭の中で
自分なりのイメージができあがります。
読み手によっては
自分の周囲の人間の顔が
思い浮かぶかも知れません。
その作業によって、
作品をより身近に
感じとることができるのです。
キャラクターが
視覚的に明確になった分、
想像する余地がなくなりました。

違和感③
時代背景の何をくみ取るべきかが
不明確になった

登場人物は80年前の服装です。
時代背景を考慮すると当然です。
しかし、
小説ではそれが見えない分だけ、
読み手の頭の中では
現代のごく慣れ親しんだ風景で
場面が組み立てられていたのです。
原作でくみ取るべき時代背景は
当時の経済格差の
大きさだと思うのです。
それが漫画である本書では、
逆に明確ではありませんでした。

こうして考えていくと、
実は漫画であることの長所が、
原作の本質を捉える上で、
同時に短所にも
なりうるということなのです。

私は「君たちはどう生きるか」を、
現代の子どもたちにも
読んで欲しいと願っています。
漫画ではなく、
原作を読んで欲しいのです。
原作は80年前に書かれたものですが、
現代にも通じる要素を数多く含んだ
哲学入門の良書と考えています。
でも、出版されている岩波文庫版は
使用されている活字体が読みにくい上、
活字そのものが小さいために
さらに読みにくくなっています。

漫画を出版したマガジンハウス社。
気が利いています。
原作もしっかり出版しています。
しかも大判で
活字も読みやすくなっています。

ぜひ漫画を読んだあとに、
原作をしっかり
読んで欲しいと思います。
ただし、マガジンハウス社の漫画と原作、
それぞれ税込み1404円。
中学生が購入するには
ちょっと高いかも知れません。
本校の図書室のように、
全国の中学校の図書室に
数冊ずつ入ってくれると、
世の中がもっと良くなると思います。

※大人は岩波文庫版を読みましょう。
 解説に重要な価値を含んでいます。

※ネットを見ると、
 「漫画版のほうが読みやすい」という
 コメントを数多く見かけます。
 それは当たり前です。
 そんな問題ではないと思います。

(2019.6.16)

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