「ショップ to ショップ」(大崎梢)

「本屋って楽しいんだよ」ということを伝えるミステリー

「ショップ to ショップ」(大崎梢)
(「本屋さんのアンソロジー」)
 光文社文庫

健人は高校の同級生・舟山から、
後ろのボックスの二人連れが
よからぬ相談をしていたことを
聞かされる。どうやら
書店での万引きらしいが、
手が込みすぎている。
書店好きの健人は、
近くにあるお気に入りの
書店へと向かう…。

元書店員作家・大崎梢の短篇作品です。
成風堂書店事件メモシリーズや
井辻智紀の業務日誌シリーズ等、
「書店ミステリー」という新しい分野を
開拓した著者ならではの短篇です。

かつてトラブルを起こした
高校生二人が、相手の高校生を逆恨みし、
万引きの濡れ衣を着せながら、
書店に対してもダメージを与えるという
巧妙な罠を、
たまたま聞きつけた大学生コンビが
未然に防ぐという筋書きです。
殺人事件のような重苦しさはなく、
かつ本好きにはたまらない要素が
盛り込まれているのが
「書店ミステリー」の醍醐味です。

本作品の味わいどころ①
探偵小説もどきの展開と推理

たまたま居合わせたカフェで
犯罪の打ち合わせを断片的に耳にする。
断片的な情報から推理し、
これから起ころうとしている事件を
想像する。
そして事件を防ぐために、
よくわからない状況でありながらも
突っ走る。
乱歩の小説にも登場する
シチュエーションであり、
しっかりとミステリーになっています。

本作品の味わいどころ②
溢れ出る作者の書店愛

至るところに作者の書店愛が
溢れ出ています。
「地元の書店はディスプレイの
移り変わりを眺めるのも楽しい」
「ポップのデザインや文字の形で
だいたいどの店員が書いているのか、
見当も付く」
「感じのいい客になりたくて
エコバッグを持参する」などなど、
そうだよね、その気持ちわかる、と
本好き書店好きなら
うなずきたくなる箇所が
盛りだくさんです。

本作品の味わいどころ③
ところどころに書店の知識

「てっぺんにスリップと呼ばれる紙が
挟まっている。
通常はレジで会計をしたさい、
引き抜かれる」
「シュリンクのかけ方に
店独自の癖がある」など、
元書店員ならではの
書店の知識がちりばめられています。

「本屋って楽しいんだよ」ということを
伝えたくて書かれたのではないかと
思われる本作品、
ミステリーの筋書きよりも、
そちらの方が楽しめました。

本短篇が収録されている
「本屋さんのアンソロジー」。
中学生にも高校生にも、
そして本好き書店好きのあなたにも
お薦めします。

(2019.7.10)

acworksさんによる写真ACからの写真

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