「本屋って楽しいんだよ」ということを伝えるミステリー
「ショップ to ショップ」(大崎梢)
(「本屋さんのアンソロジー」)
光文社文庫
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/06/2019.07.10-1.jpg)
健人は高校の同級生・舟山から、
後ろのボックスの二人連れが
よからぬ相談をしていたことを
聞かされる。どうやら
書店での万引きらしいが、
手が込みすぎている。
書店好きの健人は、
近くにあるお気に入りの
書店へと向かう…。
元書店員作家・大崎梢の短篇作品です。
成風堂書店事件メモシリーズや
井辻智紀の業務日誌シリーズ等、
「書店ミステリー」という新しい分野を
開拓した著者ならではの短篇です。
かつてトラブルを起こした
高校生二人が、相手の高校生を逆恨みし、
万引きの濡れ衣を着せながら、
書店に対してもダメージを与えるという
巧妙な罠を、
たまたま聞きつけた大学生コンビが
未然に防ぐという筋書きです。
殺人事件のような重苦しさはなく、
かつ本好きにはたまらない要素が
盛り込まれているのが
「書店ミステリー」の醍醐味です。
本作品の味わいどころ①
探偵小説もどきの展開と推理
たまたま居合わせたカフェで
犯罪の打ち合わせを断片的に耳にする。
断片的な情報から推理し、
これから起ころうとしている事件を
想像する。
そして事件を防ぐために、
よくわからない状況でありながらも
突っ走る。
乱歩の小説にも登場する
シチュエーションであり、
しっかりとミステリーになっています。
本作品の味わいどころ②
溢れ出る作者の書店愛
至るところに作者の書店愛が
溢れ出ています。
「地元の書店はディスプレイの
移り変わりを眺めるのも楽しい」
「ポップのデザインや文字の形で
だいたいどの店員が書いているのか、
見当も付く」
「感じのいい客になりたくて
エコバッグを持参する」などなど、
そうだよね、その気持ちわかる、と
本好き書店好きなら
うなずきたくなる箇所が
盛りだくさんです。
本作品の味わいどころ③
ところどころに書店の知識
「てっぺんにスリップと呼ばれる紙が
挟まっている。
通常はレジで会計をしたさい、
引き抜かれる」
「シュリンクのかけ方に
店独自の癖がある」など、
元書店員ならではの
書店の知識がちりばめられています。
「本屋って楽しいんだよ」ということを
伝えたくて書かれたのではないかと
思われる本作品、
ミステリーの筋書きよりも、
そちらの方が楽しめました。
本短篇が収録されている
「本屋さんのアンソロジー」。
中学生にも高校生にも、
そして本好き書店好きのあなたにも
お薦めします。
(2019.7.10)
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/06/2019.07.10-1-shoten.jpg)