「穴 HOLES」(サッカー)②

ミステリーと冒険が交互に訪れる贅沢な作品

「穴 HOLES」
(サッカー/幸田敦子訳)講談社文庫

昨日は本作品の
「児童文学」としての側面を語りました。
本作品はそれだけで終わりません。
大人も十分に楽しめる
価値を持っているのです。
少年の成長物語であると同時に、
スリルに富んだミステリーであり、
痛快な冒険小説です。
しかもそれが交互に訪れるという、
何ともいえない贅沢な作品なのです。

スリルに富んだミステリー①
キャンプの日課である穴掘りは、
単なる精神修養ではありませんでした。
スタンリーが穴掘りの最中に見つけた
KBのイニシャルのある金属の筒。
それこそが収容所の所長の
探しているものに繋がる
重大な手掛かりだったのです。

痛快な冒険小説①
主人公・スタンリーは
行方不明となった
友達のゼロを探すため、
監視員の隙を突き、
トラックを奪って脱走を図ります。
穴にはまったトラックを捨て、
砂漠の逃走劇が始まります。

スリルに富んだミステリー②
スタンリーは
幸運にもゼロを発見します。
彼は自分の祖父の話を思い出し、
この砂漠で生き延びる
可能性のあることを見つけ出します。
二人はそのどことも知れない
「約束の地」へと向かいます。

痛快な冒険小説②
衰弱したゼロを背負っての
逃避行が続きます。
うまい具合に
野生のタマネギと湧水池を
見つけた二人は
活力を取り戻します。

スリルに富んだミステリー③
スタンリーはゼロの告白から、
自分の無実を知ります。
しかし無実の罪で災難を被ったことを
悔やんでいません。
むしろ幸福だと感じているのです。

痛快な冒険小説③
いよいよクライマックスです。
二人は最後の勝負に出ます。
キャンプに戻り、
収容所が寝静まった頃を見はからって、
所長よりも先に
目当てのものを掘り出し、
主導権を得ようとします。
しかし…、
手に汗握る展開が
次から次へと押しよせます。

子どもを主人公にしていますが、
大人のミステリー顔負けの
謎解きの要素を持ち、
さらには大人の冒険小説に匹敵する
スリリングな展開を備えているのです。
これこそまさしく万人が楽しめる
究極のエンターテインメントなのです。

こうした作品が読めるなんて、
現代の子どもたちは幸せです。
将来的には
ハックルベリーフィンと並び称される
可能性の高いアメリカ児童文学の傑作。
まだ読んでいない方は、
ぜひお読み下さい。

(2019.7.17)

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