「穴 HOLES」(サッカー)③

周到に張り巡らされた伏線が回収される小気味良さ

「穴 HOLES」
(サッカー/幸田敦子訳)講談社文庫

前々回は本作品の
「成長物語」としての側面、
前回はスリルに富んだミステリーかつ
痛快な冒険小説としての要素について
記しました。
子どもにも大人にも
受け入れられる作品である理由は、
それらに加えて本作品が
夢を感じさせるファンタジーであり、
主人公の一家をめぐるクロニクルでも
あるからなのです。

本作品を読み始めると、
おや?と思う場面が
いくつか登場します。
なぜか過去、
それもスタンリーの祖父や曾祖父の
エピソードが織り込まれるのです。
曾祖父エリャ・イェルナッツと、
彼が若い頃親交のあった
マダム・ゼローニ婆の関わりが
記されたかと思うと、次には
祖父スタンリー・イェルナッツ1世と
女盗賊〈あなたにキッスの
ケイト・バーロウ〉の逸話が
盛り込まれます。
そうかと思うと、
キャンプ地グリーン・レイクで
110年前に起きた
ミス・キャサリンと黒人サムの
悲恋が挿入されるのです。

複雑なので整理します。
ところどころに編み込まれているのは
「曾祖父エリャとゼローニ婆」
「祖父スタンリー1世と盗賊バーロウ」
「ミス・キャサリンと黒人サム」の
3つのエピソードです。
これらがすべて
現代のスタンリーに降りかかる
災難と冒険の伏線となっているのです。

それが「グリーン・レイクに110年
雨が降らない」という呪いを生み出し、
「約束の地で命拾いをした」という
昔話と絡み合い、
「グリーン・レイクには
盗賊の隠した秘宝がある」という伝説を
創りだしたことに繋がっているのです。

どうしてこんなことを
わざわざ書いているのだろう?
と思うことのすべて、
例えば「3代続けて
スタンリー・イェルナッツを
名乗っていること」や
「履き古しのスニーカーの
最初の使い道を発見したものは
大金持ちになれる」など、
それらはすべて
周到に張り巡らされた伏線です。

それらすべてが後半以降で
見事に回収される小気味良さ。
児童文学でありながら、
描かれているのは
スタンリー家4代に渡る
年代記・クロニクルなのです。

もう一度書きます。
本作品は、
感動的な少年の成長物語であり、
スリルに富んだミステリーであり、
痛快な冒険小説であり、
夢を感じさせるファンタジーであり、
主人公の一家をめぐる
クロニクルでもあります。
小説の面白さを、
これでもかと満載しているのです。
多くの中学生に読まれるべき
アメリカ児童文学の超傑作です。

(2019.717)

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