「コロンバ」(デレッダ)

青年アントニオは、あまりにも青すぎました

「コロンバ」
(デレッダ/大久保昭男訳)
(「百年文庫077 青」)ポプラ社

失恋し、
傷心で帰郷したアントニオは、
ひたむきな田舎娘
コロンバと出会い、
いつしか心惹かれる。
コロンバの父親は
彼女を金持ちの羊飼い・
ロイのところへ
嫁に出そうとしていた。
貧乏な教師であるアントニオは、
思い悩む…。

表題にもなっているコロンバは
明るく快活で社交的な女の子です。
父親がすすめる
金持ちとの結婚も断り続ける、
自分の意志を
明確に持った少女なのです。

アントニオは勤め先のある都会で
恋人に裏切られ、
その心の傷を癒やすために
故郷へ里帰りしていました。
学問に優れ、
本を愛する内向的な青年です。

こんな二人が恋に落ちたのですから、
展開は何となく読めてしまいます。
アントニオはうじうじしながらも、
コロンバの思い溢れる
視線に射すくめられ、
脈ありとみるや、
自分の思いだけで突っ走ろうとする。
コロンバはそんなアントニオを
冷静にいなしながら、
もっとも適切な道を選ぼうとする。

詳しくは書かれていませんが、
年齢はアントニオの方が上でしょう。
そして学識も高いのです。でも、
コロンバの方が一段高いところから
人生と自分たち二人を見ているのです。
そんな二人の結末は…、
やはりうまくはいきませんでした。

彼の失敗の一つは、
教師である自分と
田舎娘のコロンバの結婚は
難しいだろうと
勝手に決めつけていたことです。
住む世界が違いすぎると
感じていたのでしょう。
でも、当時のイタリアに
そこまで厳格な身分制度が
存在していたわけではありません。
彼はある意味、コロンバを
見下していたことになるのです。

もう一つは、
コロンバの気持ちを考えずに
性急に事を運んだことです。
夏が終わり、都会に帰る前に
彼女に結婚を申し込みます。
コロンバは彼を愛しているのですが、
彼と今結婚することが
幸せには決して繋がらないと
見抜いていたのでしょう。
だからこそ彼女は
「このまま」の状態でいたいと
願っていたのです。

相手をリードできるだけの
器の大きさのある男性と
しおらしい女性とのカップルなら、
物事はうまくいくのかも知れません。
しかし若い世代の恋愛は
得てして本作品のように
男女の心の成熟具合が
逆転しているケースの方が
多いのではないでしょうか。
青年アントニオは、
あまりにも青すぎました。

作者・デレッダは
初めて聞く名前でしたが、
調べてみたらノーベル文学賞受賞者。
イタリアを代表する女流作家でした。
まったく不勉強でした。

(2019.9.14)

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