「青い山脈」(石坂洋次郎)①

古くさいどころか現代にこそ必要なテーマ

「青い山脈」(石坂洋次郎)新潮文庫

若い教員・雪子は、
受け持ちの生徒・新子から
相談を受ける。
ラブレターと見られる
手紙が届いたが、
それは同級生の誰かからの
ニセ手紙であり、
新子に対する糾弾の意図が
見られるのだという。新子は
昨年転校してきた生徒だった…。

この16歳の新子、
明るく素直で爽やかであり、
それでいて筋が通っていて
意志の強い女の子です。
この新子と、20歳の男子・六助の
恋愛を描いた筋書きが、
本作品の横糸となっています。

まず二人の出会いに心を動かされます。
農村から来た新子が
六助の家に米を売りにくるという
時代がかったものですが、
その後の展開が清新です。
なんと六助は
新子にその米で御飯を炊かせ、
昼飯をつくらせ
一緒に食べるのですから。
それがきわめて自然に、
しかも清涼な表現で描かれています。

二人はお互いに節度を守り、
道を外れるような方向へは進みません。
では、つまらない展開なのかというと
決してそうではありません。
偶然再会し、そのまま六助の仲間たちと
テニスに興じる場面、
二人でボートに乗っていたところを
地元の青年たちに絡まれ、
それを二人で海の中で懲らしめる場面、
林檎の密移出を決行した新子を
六助が手助けして
見事に成功させる場面、
すべてが胸躍るような爽快感に
満ちあふれているのです。

男女が危険な関係に
踏み込むような筋書きでなくとも、
これだけ心がときめくような
恋愛物語になり得るのです。
本作品を読んだあとでは、
現代の恋愛小説は
脂っこいものと甘ったるいものの
何と多いことかと思わざるを得ません。

「清く正しい男女交際」は、
もしかしたら古くさく
感じられるかも知れません。
しかし、男女がお互いを正しく理解し、
人格を認め合い、
一人の人間として尊重し合ったとき、
その関係は自ずとこのような姿に
なっていくと思うのです。

戦後、男女の平等が叫ばれたとき、
その本質の実現以前に、
狭義の「性の解放」の側面のみが
上滑りするように広がっていきました。
本作品に描かれている
「健全な男女交際」は、
古くさいどころか
現代にこそ必要なテーマだと思います。

映画やその主題歌が昭和を代表する
存在となってしまったため、
タイトルを見ただけで
レトロな印象を持ってしまう
本作品ですが、
現代においても
決して色褪せることのない
魅力に富んだ小説です。
強くお薦めしたいのですが、
残念なことに現在絶版状態です。
私も古書店で購入しました。

(2019.9.19)

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