「秘密」(谷崎潤一郎)

この主人公の延長線上を描いたのは乱歩か

「秘密」(谷崎潤一郎)
(「潤一郎ラビリンスⅠ初期短編集」)
 中公文庫

「秘密」(谷崎潤一郎)
(「刺青・秘密」)新潮文庫

「秘密」(谷崎潤一郎)
(「百年文庫16 妖」)ポプラ社

「秘密」(谷崎潤一郎)
(「明治探偵冒険小説集4」)ちくま文庫

女装癖をもつ男が、かつて
関係を持っていた女と出会い、
再び接触を図る。
関係を再開する条件は
「秘密」を守ることだった。
男は毎夜目隠しをされ、
逢い引きの場所へ到達する。
ある日、男はどうしても
女の正体を知りたいと思い…。

これはまるで探偵小説です。
「途上」を取り上げたときにも
書きましたが、谷崎は初期の頃、
乱歩の先駆けのような小説を
いくつか発表していました。
本作品もそのひとつです。

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女の家に向かう車の中で、
一瞬だけ目隠しをとることを
許された男は、
見たことのないその風景を手掛かりに、
女の居場所を探り当ててしまうのです。
それも目隠しされている時の右折・左折や
走っている時間の感覚だけを頼りに。

まるで探偵小説ではないか!と、
スリリングな展開に期待すると…。
女の正体がつかめると男は思いが冷め、
すぐさま女を捨てる。
それでおしまいです。

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ここに若かりし日の谷崎の女性観が
正直に表れているといえます。
女は謎に包まれているからこそ魅力的。
秘密だから惹かれる。
だけど秘密を知りたい。
しかし謎が解けると魅力はなくなる。
なんと我が儘な欲求でしょう。
こんな男でいいのか?
いいのです!谷崎だから。

実際谷崎は最初の奥さんと
結婚すると同時に飽きてしまい、
夫婦生活を営めなくなっています。
それは「蓼喰う虫」にも明らかです。

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多分、この主人公の
「秘密を望む欲求」はこの先次第に
エスカレートしていくのでしょう。
それは最後の
「私の心はだんだん「秘密」などと云う
 手ぬるい淡い快感に
 満足しなくなって、
 もッと色彩の濃い、
 血だらけな歓楽を求めるように
 傾いていった」
からも明らかです。

この「作品の延長線上」にあるのは
「痴人の愛」であり、
「鍵」であり、
「瘋癲老人日記」であると思います。
でも、この「主人公の延長線上」を
描いたのは谷崎ではなく、
乱歩だったのではないかと思うのです。
乱歩はありとあらゆる方法で
「血だらけな快楽」を
描ききってしまいましたから。

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谷崎作品を読む度に思うのですが、
谷崎の妖しげなる世界は、
間違っても子どもになんぞに
紹介できる代物ではありません。
正しい方向に成長した大人だけが
密かに味わう世界です。
中公文庫「潤一郎ラビリンス」全16巻の
最初の一冊「Ⅰ初期短編集」で、
名作「刺青」「少年」とともにどうぞ。

(2019.10.1)

【青空文庫】
「秘密」(谷崎潤一郎)

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