「算法少女」(遠藤寛子)

時代がようやく「算法少女」に追いついた

「算法少女」(遠藤寛子)
 ちくま学芸文庫

父・千葉桃三から
算法の手ほどきを受けていた
町娘あきは、ある日、
観音さまに奉納された算額に
誤りを見つけ声を上げた。
それを聞き及んだ
久留米藩主・有馬候は、
あきを姫君の
算法指南役にしようとするが、
なにやら騒動が…。

数年前から「リケジョ」がブームです。
かつてSTAP細胞の一件で
ややケチがついてしまいましたが、
世の中の流れは変わりません。
女子のみなさん、
どんどん理系を目指してください。

私は中学校教員として、
能力のある女子生徒が
年齢とともに
学問から遠ざかっていく様を
ずっと見てきました。
「ファッション」「ヘアスタイル」
「化粧品」「スマホ」「ライン」…。
つまらないものに目先を奪われ、
学ぶ意欲を失い、せっかくの能力を
発揮しようともしないまま
卒業していく…。
残念でなりませんでした。
多くの女子中学生、女子高生が、
学問を正統な価値として
認識し始めたのは嬉しいかぎりです。

さて、最近読んだリケジョの本が
この「算法少女」です。
時は江戸時代、その名の通り、
一人の町娘が
算法の才を発揮し始めるところから
物語が始まります。

主人公が得意の算術を使って、
難敵を次々に撃破していく、
というような、
あんちょこなストーリーを
期待してはいけません。
算法好きの女の子が立ち向かうのは、
身分の上下、社会における不正、
経済的格差の問題、
学問における縦割り構造などなど。
若いながらも芯の強い、
かつ優しい女の子の姿が
描かれています。

そうです。
学問を身に付けた人間は
強くなれるのです。
学問を身に付けた人間は
優しくなれるのです。
学問を身に付けた人間は
困難を乗り越えることができるのです。
この本を
全国の女子中学生に読んで欲しいと、
切に願う次第です。

さて、こんな素晴らしい小説、
なぜ今まで気が付かなかった?
解説を見ると、
出版されたのは昭和43年。
そんなに早く世に出ていたのか。
なになに、
その10年後には出版打ち切り。
そして今の文庫本での
再出版が平成18年。
その間20年以上の間、
忘れ去られていたのか!

そうです。
「算法少女」は、はからずも時代を
先取りしすぎていたのです。
女性が数学で志を立てる物語など、
昭和40年代の世間にとって
「?」だらけだったに違いありません。
時代がようやく
「算法少女」に追いついたのです。

(2019.10.28)

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