「電報」(黒島伝治)②

これは明治・大正期だけのことなのだろうか

「電報」(黒島伝治)
(「百年文庫083 村」)ポプラ社

前回この作品を取り上げ、
「あまりにも悲惨な明治・大正期の
労働者の実態」と書きました。
そしてこれは明治・大正期だけの
ことなのだろうかと問題提起しました。
今回はその点を少し掘り下げてみます。

現在、「貧困の連鎖」が
問題になっています。
親の貧困は子どもに
受け継がれてしまうケースが
極めて多いというのです。
生活保護受給世帯で育った子どもの
4人に1人が、成人後に生活保護を
受けているという実態があります。

「一億総中流」といわれた時代は
知らぬ間に終わり、
「格差社会」が押し寄せてきていました。
「働いても豊かになれない」時代が、
再び到来してきたのです。

「電報」の源作は、せめて子世代孫世代を
貧困から抜け出させようと、
子どもに学問を
修めさせようとするのですが、
周囲の圧力に屈してしまいます。
現代もやはり学問を身に付け、
安定した職業に就くことが
貧困脱出の一つの方法なのですが、
やはり低所得層では学ぶこと自体が
難しくなってきています。

2015年に
日本労働組合総連合会が行った
「大学生・院生の保護者の
教育費負担に関する調査」によると、
奨学金を利用している大学生・院生は
全体の31.7%になるのですが、
親の年収200万円~400万円未満では
それが61.5%にも跳ね上がるのです。

親の収入が低くても、
奨学金等を利用して
大学進学する方法は残されています。
しかし日本の奨学金の多くが
「貸与型」であり、いずれは
返済しなければなりません
(ちなみに諸外国では
「貸与型」は珍しく、「給付型」が
一般的なのだそうです)。
同調査では、返済義務のある
奨学金利用者の卒業までの
借入総額(予定額)は平均で
301.8万円と指摘しています。
つまり、社会人のスタートにあたって、
すでに300万もの借金を
背負い込んでいる形になるのです。
これでは豊かな生活を
実現することなどかなり難しくなり、
貧困層の再生産に
つながってしまいます。

他人事とは思われません。
我が家も障害を担っている
長男を抱えているため、
妻は10年前に退職しました。
私の稼ぎがすべてです。
私がもし何かの事情で
働くことができなくなれば、
即貧困の環の中に
捉えられてしまいます。

2017年に本作品を含む
黒島伝治の文庫本「橇・豚群」が
講談社文芸文庫から出版されています。
そうした背景には、
このような今日の事情が
絡んでいるのかも知れません。
黒島文学の再評価は嬉しい反面、
複雑な思いも生じてきます。

※本作品は講談社文芸文庫版
 「橇・豚群」でも読むことができます。

(2019.11.5)

【青空文庫】
「電報」(黒島伝治)

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