「コーヒーと恋愛」(獅子文六)

獅子文六、再評価は当然の流れなのでした

「コーヒーと恋愛」(獅子文六)
 ちくま文庫

「コーヒーと恋愛」ちくま文庫

お茶の間の人気女優・
坂井モエ子43歳は
コーヒーを入れさせれば
ピカイチ。
そのコーヒーが縁で
演劇に情熱を注ぐ
8歳下のベンちゃんと
同棲生活を続けていた。
ところが、
ベンちゃんは劇団の
若い女優・アンナの
才能にベタ惚れして…。

再評価が進み、
現在ちくま文庫から
復刊が相次いでいる
明治生まれの作家・獅子文六
本作品が発表されたのは
1962年の読売新聞紙上。
120年以上前に生まれた作家が
50年以上前に書いた長編小説となると、
重厚で深刻な純文学を
思い描いてしまうのですが、
まったく違います。

脇役専門人柄人気女優モエ子が、
同棲していた
8歳年下の夫・ベンちゃんを、
19歳の新人女優・アンナに
寝取られるという三角関係。
しかも二人は
テレビドラマで共演します。
そのベンちゃんも、
マネージャーにアンナを奪われ、
しまいには
モエ子に復縁を願い出ます。
最後にモエ子は
きっぱりとベンちゃんを諦め、
コーヒー仲間との縁談も断り、
女優の道を邁進する決意を
固めるのです。

シチュエーションだけ見ると、
ドロドロした展開になりそうですが、
きわめてさっぱりしています。
決して暗くなっていません。

登場人物も憎めない面々ばかりです。
モエ子の稼ぎで暮らしているのに
関白気取り、そのくせ
若い女に走ってしまったベンちゃんは、
いわばダメ男なのですが、
新劇への熱い情熱ゆえであり、
許せてしまいます。
アンナもテレビ女優として
売れるためなら何でもする
小狡い小悪魔なのですが、
嘘とも正直とも取れない
モエ子とのやり取りは
悪い気がしません。
コーヒー仲間たちは人のプライバシーに
ずかずかと踏み込んでくる
迷惑な御節介焼きなのですが、
妙な安心感があります。
つまり、
悪人らしい登場人物がいないのです。

読み終えて気づきました。
そうかこれはホーム・ドラマなのだと。
舞台もホーム・ドラマなら、
小説の表現手法もホーム・ドラマ。
テレビ黎明期の昭和30年代に、
その後のお茶の間を賑わすことになる
テレビのホーム・ドラマを
小説で先取りしたものなのです。

経歴や作品を調べてみると、
獅子文六は演出家でもありました。
また、かなりの数の
テレビ化・映画化作品があります。
日本エンターテインメントの
巨人ともいうべき存在なのです。
獅子文六、
再評価は当然の流れなのでした。
大人はもちろん、
中学生高校生にも薦められる
面白さです。

(2019.11.13)

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