「なんにもないけどやってみた」(栗山さやか)①

私の心に強く反省を求めて迫ってきました

「なんにもないけどやってみた」
(栗山さやか)岩波ジュニア新書

やせ細って
ひからびた状態になっている女の子、
床ずれで皮膚が爛れてしまい、
おしりの部分は骨まで見えている女性、
口が大きく崩れていて、
口からのどの途中までが口になっていて
血と膿にまみれている女性、
腕の腫瘍の部分が腐り、
蛆がわいて苦しんでいる女の子、
まだ十代なのにレイプによるHIV感染で
死を迎えなければならない女の子、
まともな医療器具も薬品もなく、
医療行為さえ行われずに不衛生な
環境の中で亡くなっていく人々、等々
目を背けたくなるような病状の
女性たちが記録されています。
アフリカ・エチオピアの療養施設です。

発展途上国の貧困の様子を伝える
記事や書物にはそれなりに
目を通してきたつもりでしたが、
実際にはこれほどひどい状況なのかと
身震いする思いです。

著者の栗山さやかさんは
現在もアフリカでボランティア活動を
継続中ですが、
本書は2011年に出版された、
いわば活動の初期段階での記録です。
タイトル通り医療の知識も
現地の言語知識もない
まったくの「なんにもない」状態で、
自分のできる限りのことを
最大限「やってみた」記録です。
アフリカの貧困の現状を、
第三者的な視点から見るのではなく、
自分に関わることとして、
そして自分の問題として、
それらをそのまま受けとめ、
それを自分の言葉で
発信したものなのです。

だからこそ、生の現場、
最も貧困がはびこっている地域の
そのままの状況が
記録されているのだと思います。
彼女が関わった
一人一人の患者の女性たちが、
あたかも目の前にいて、
弱々しい息づかいで横たわっているのが
見えてくるようです。

発展途上国の貧困を
他人事として見ていなかったか?
「日本もかつては通ってきた道」などと
突き放して捉えていなかったか?
それは当事国の行政が
解決にむけて動き出すのが筋だなどと
理屈を並べて終わっていなかったか?
彼女は純粋に自分の考えを
並べただけであるにもかかわらず、
その筆致は私の心に
強く反省を求めて迫ってきました。

ここにアフリカの
真実の一面があります。
ここに世界の不平等の
最底辺があります。
ここに私たちが見過ごしてきた
人間社会の矛盾があります。
これからの時代を生きる子どもたちと、
モノの溢れたこの国でなお
不満を抱えて生きている大人たちに、
ぜひ読んでほしい一冊です。

(2019.11.27)

emocjeによるPixabayからの画像

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