「君の波が聞こえる」(乾ルカ)②

四龍海城とは一体何の象徴なのか

「君の波が聞こえる」(乾ルカ)
 新潮文庫

前回も取り上げました。
少年の友情物語でありながら、
謎はいっさい解明されない不思議な
異世界ファンタジー小説です。
純粋に2人の友情の美しさに
浸っていればいいのですが、
大人である私などはついつい謎の方に
目がいってしまいます。
そしてその謎は、
解明されないからこそ、
いろいろな想像が
かき立てられてしまうのです。

この不思議な空間、四龍海城とは
一体何の象徴なのか。
私は読み進めながら、
これが日本の原子力発電所の
象徴のように
思えてならなかったのです。

かき立てられた想像①
城は波力発電であり、
何らかの方法によって通常の波力発電の
数倍の電力をつくり出しています。
その電力は、日本の必要量の約4割を
極秘裏にまかなっているという
設定です。
ここからすぐ原発を
想像してしまいました。

かき立てられた想像②
拉致された人間は、城の中で
不自由のない暮らしを送っています。
しかし、1日4回流れる
社歌に潜ませた旋律によって、
気付かないうちに心を失い、
やがて労働者として
従事するようになるのです。
まるで補助金を積まれ、
安全神話を吹き込まれて
原発誘致に傾いていく
原発立地住民の姿を想起させられます。

かき立てられた想像③
城の中には発電施設のみではなく、
商店や娯楽施設もあり、
一つのコミュニティを形成しています。
これは原発によって
地域経済が成り立っている
原発立地地域の社会を
イメージさせます。

ファンタジーなら、
単なる魔法の国でいいものを、
摩訶不思議な城の内部を
あえて発電所と設定した
作者の真意はここにあるのではないかと
考えてしまうのです。

さて、ここは終末部の
ネタバレになってしまって
申し訳ないのですが、
出城料は「絶対に取られたくないもの」。
日本が原発から抜け出すためには、
「絶対に取られたくない」
日本人の命、日本の美しい国土、
日本の文化、そうしたものを
差し出さなければならない、と
考えるのは穿ち過ぎでしょうか。
大切なものを奪い取られない限り、
正気の世界には
戻れないというメッセージに、
私には聞こえてしまいました。
だとすれば本作品同様、
この国の未来は悲しい結末なのですが。

いろいろなことを考えさせられる
本作品を、中学校2・3年生、高校生、
そして大人のあなたにお薦めします。

(2019.12.6)

tunnelmotionsによるPixabayからの画像

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