「飛ぶ教室」(ケストナー)②

どうしてうちにはお金がないのか

「飛ぶ教室」(ケストナー/丘沢静也訳)
 光文社古典新訳文庫

マルティンは考えた。
「お父さんお母さんのことが
 大好きだし、
 ぼくもかわいがられてる。
 なのに、いっしょに
 クリスマスイブを過ごせない。
 それはどうしてなのか。
 お金のせいだ。
 どうしてうちには
 お金がないのか」
…。

ギムナジウムの優等生マルティンは、
家が貧しいがために、
クリスマスの時期、帰郷できず、
寄宿舎に残る覚悟を決めます。
往復の旅費は16マルク。
それがその当時どのくらいの
貨幣価値かはわかりませんが、
他の生徒の親が送金できる金額が、
彼の両親は捻出できないのです。

貧困の問題は古今東西、
数多くあります。
おそらく、有史以来、
人があるところ、
貧困が存在していたのではないかと
思われるくらいです。

他の寄宿生がすべて帰郷したあと、
まだ残っていたマルティンを
見つけた舎監の先生「正義さん」
ことベーク先生は、
すべてを察し、
彼に20マルクを握らせ、
家に帰るように促します。
マルティンは
「ありがとうございます、先生。
 でも、いつこの金を返せるか、
 わからない。
 お父さん、失業してるんです。」

それに対し、
ベーク先生は厳しい口調で
「クリスマスイブに
 旅費をプレゼントするんだよ。
 返してもらおうなんて
 思っちゃいない。その方が、
 うんとすてきじゃないか。」

いいお話です。
いいお話ですけれども、
何かが間違っています。
貧困を救済するのは
行政の役目であって、
一介の教師の役割ではないはずです。

同様のことは、
第2次大戦中のドイツどころではなく、
現代日本で起きています。
ある調査では、
学校納入金に未納があった場合、
小学校では46%の割合で
学級担任が立て替えている
という状況があります。

昨日に続いて、本書の内容に
十分に触れないまま、
紙面が終わりに近づいてきました。
本書は、このマルティンと
ベーク先生のエピソードだけでなく、
教師と子どもたちが
本当に気持ちのよい関係を
築きあげているようすが
描かれています。
子どもたちは人生の先輩としての教師を
言葉や態度ではなく、心の奥底で
リスペクトしているようすが
うかがえます。
かつ、教師は子どもたちに対し、
厳しく接しつつも愛情を込め、
しっかり育てようとする姿勢が
至るところに見えるのです。
教員として学ぶ点の多い一冊です。

教師がお金を上げなくても
すべての子どもたちが幸せになれる
クリスマスであることを
祈りたいと思います。

(2019.12.21)

susan ohによるPixabayからの画像

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