「刺青」(谷崎潤一郎)

ここから谷崎文学の妖艶な世界が始まった

「刺青」(谷崎潤一郎)
(「刺青・秘密」)新潮文庫

「刺青」(谷崎潤一郎)
(「潤一郎ラビリンスⅠ」)中公文庫

刺青師清吉は、
美しい女の肌に自分の魂を
彫り込むことを念願としていた。
ある日、清吉は
五年前に見つけた
美しい脚の女と再び巡り会う。
女を言葉巧みに誘い、
薬で眠らせ、
清吉はついに女の背中に
見事な女郎蜘蛛を彫りつける…。

谷崎潤一郎の事実上の処女作、
ここから谷崎文学の
妖艶な世界が始まったのです。
倒錯した性愛を扱い、
谷崎文学のその後の方向を
決定づけた作品といえるでしょう。

わずか12頁に展開する
妖艶なエロス
(直接的な性表現はありませんが)。
谷崎の文学世界は
処女作において
すでに完成していたのです。
まともではありません。
倒錯しています。
脚フェチなどという
言葉がない時代から
すでにフェチズムにはまっています。

念願を成就した清吉が放つ
決定的な一言、
「男と云う男は、
皆なお前の肥料(こやし)になるのだ」。
そう言った清吉自身が
肥料第一号となっているのです。
強烈なマゾヒズムが
恥じらいもなく描かれています。

女も女です。
「私はもう今迄の様な臆病な心を、
 さらりと捨ててしまいました。
 お前さんは真っ先に
 私の肥料になったんだねえ。」

薬で眠らされているうちに
入れ墨をされるという
おぞましい体験をしたのに、
恐怖するどころか喜んでいるのです。
小説の世界とはいえ、
何というサディズム。

これは谷崎だから許されるのです。
令和の現代でも
かなり引いてしまうような内容が、
性があけすけではなかった
明治・大正期に、
文学もしくは芸術として許容、
いや評価されているのです。
異常性癖や背徳、アブノーマルを
芸術の域にまで引き上げてしまう
谷崎の日本語力には
ただただ圧倒されるばかりです。
現代の作家がこれを書いたら、
単なる変態小説として
週刊誌の巻末付近に
掲載されるのが関の山でしょう。

後の名作「春琴抄」や「痴人の愛」を
予感させる作品です。
そして谷崎文学を理解する上では
欠かすことのできない出立点なのです。

当然のごとく、
未成年にはおすすめできない代物です。
確固たる自己が確立していない段階では
副作用が強すぎます。
これは大人が楽しむ
文学による異世界です。
大人のみなさん、
美しい日本語が奏でる
妖艶な世界を十分に堪能しましょう。

(2019.12.27)

created by Rinker
¥649 (2024/05/18 17:45:42時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥83 (2024/05/18 06:29:54時点 Amazon調べ-詳細)

【青空文庫】
「刺青」(谷崎潤一郎)

【関連記事:谷崎潤一郎作品】

【今日のさらにお薦め3作品】

【谷崎の本はいかがですか】

created by Rinker
¥922 (2024/05/18 08:56:45時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥922 (2024/05/18 11:34:39時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA