「透明怪人」(江戸川乱歩)

古のジュヴナイルとしてのレトロな味わい

「透明怪人」(江戸川乱歩)ポプラ社

蝋人形のような
仮面を被った怪紳士は、
尾行してきた少年探偵団員
二人の目の前で
シャツを脱ぎ始める。
何とそこには何もなく、
怪紳士の正体は
透明人間だった。
折しも透明の怪人が
東京に現れ、連日事件を
引き起こしていた…。

初読は私が小学校5年生の時でした。
わくわくしながら
読んだ記憶があります。
青銅の魔人や魔法博士(地底の魔術王)の
例で考えると、
この「透明怪人」の正体は
怪人二十面相であることが
明白であるにもかかわらず、
子どもの想像力では
どうすれば透明になれるのか、
そんなことが実際に可能なのか、
謎だらけでした。
興奮の連続だったことを覚えています。

「透明怪人」読みどころ①
手品・奇術・トリック・オンパレード

終末の明智の述懐
「こんどの事件は、まるで奇術の
展覧会のようなものだよ」で
言い尽くされているように、
ありもしない透明人間を
でっち上げるために、
ありとあらゆる手品・奇術・トリックを
総動員させているのです。
作者・乱歩は考えられるネタを
全てつぎ込んだのではないかと
思われます。
明智小五郎が意外にあっさりと
謎解きをしているのが
もったいないくらいです。

「透明怪人」読みどころ②
細かいところを無視してエンタメ優先

その謎解きには
やや強引な部分が散見されます。
島田家の地下金庫から
宝物を盗み出した手段についても、
「奇術師のはやわざで、
真珠塔をガラス箱の中から、
ぬきとっておいたのだよ」と
簡単に説明していますが、
冷静に状況を考えると
絶対に不可能です。
でもいいのです。
細かいところを無視して
面白さを徹底追求しているのですから。

「透明怪人」読みどころ③
二十面相と明智小五郎の化かし合い

最後は囚われの身であった明智が
脱出に成功し、その勢いで
敵の首領を捕らえます。
しかしその明智だけでなく、
救出された明智と、
敵の首領の変装を解いて現れた明智と、
計3人の明智が対決します。
この二十面相と明智小五郎の
化かし合いが、最も効果的に
演出されているのが本作品でしょう。

再読してみると、
40年前に読んだ興奮を味わうことは
残念ながらできませんでした。
今となってはからくりの大部分が
想像できること、
腹話術や幻灯機など
時代がかったトリックが多いこと、
そしてそもそも科学的なリアリティが
「透明人間」にはまったく
存在しないこと等が原因でしょう。
それでも本作品には
古のジュヴナイルとしての
レトロな味わいが満載です。
いい年をした大人が読むべき一冊です。

※もしも透明な人間がいたならば、
 ガラスのように
 透き通っているだけで、
 体表の輪郭はしっかりと
 見ることができます。
 見えないようになるためには、
 光の屈折率が空気と同じでなければ
 なりません。そして仮に
 屈折率が同じであっても、
 気温や湿度の変化で
 空気屈折率が変化する以上、
 やはりどこかで見えてしまいます。
 素っ裸で透明な人間が
 歩いているとしたら滑稽です。
 透明人間はどうしても
 リアリティに欠けてしまうのです。

(2019.12.29)

Reimund BertramsによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「透明怪人」(江戸川乱歩)

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