「ナイチンゲールとばらの花」(ワイルド)

西洋の童話は得てして辛口です。

「ナイチンゲールとばらの花」
(ワイルド/西村孝次訳)
(「幸福な王子」)新潮文庫

「赤いばらを
持ってきてくださったら
踊ってあげましょうと、
あのひとは、言ったんだ」という
若い学生の叫びを聞いていた
ナイチンゲールは、
その願いを叶えようと考える。
ナイチンゲールはばらの木に、
赤い花を得る方法を尋ねる…。

前回取り上げたワイルドですが、
童話集も編んでいます。
意外と知らない方も多いのですが、
「幸福な王子」はワイルド作です。
本作品も「幸福な王子」同様、
やや後味の悪さを感じさせながらも、
心にしっかりと残る作品です。

ナイチンゲールとはもちろん
日本名で夜鳴鶯のことで
(英国の白衣の天使ではありません)、
日本の鶯に負けないくらいの
美しい鳴き声の鳥です。
その小鳥が学生の叫びを聞き、
その学生こそ
自分の求めていた恋人だと悟るのです。
そしてその恋人のために、
何とかして赤いばらを
見つけようとします。

しかし赤い花を得る方法とは…、
枯れたばらの枝の棘に
自分の心臓を突き刺し、その血液を
吸わせて咲かせるという方法であり、
しかもその間苦しみに耐えて
歌い続けなければならないという
過酷なものだったのです。

ナイチンゲールは
自らの命と引き換えに、
赤いばらの花を咲かせることに
成功します。
学生は夜が明けると、
その赤いばらを見つけ、
それを持って喜び勇んで
彼女のもとへ駆けつけます。

そこで完結していれば
単なる美談で終わったでしょう。
問題はその後です。
ワイルドらしさが全開です。

彼女は「わたくしのドレスに
似合わない」と言いきり、
怒った学生はそのばらを投げ捨てます。
ばらは溝に落ち、
荷車の車輪にひかれてしまうのです。

読み終わるとやるせない気持ちで
いっぱいになります。
ナイチンゲールが命がけで
学生のために赤いばらをつくったのに、
彼女はもちろん
学生ですらその価値に気付かず
ゴミのように捨て去る。
読むたびに怒りが込み上げてきます。

これはやはり「幸福な王子」と同じです。
無知な市民の姿に対比させたとき、
燕と王子像の純粋な心の在り方が
ひときわ美しく見えるのと同様、
学生と彼女の浅はかさによって
無垢なナイチンゲールの魂が
宝石のような輝きを放って
迫ってくるのです。

安易なハッピーエンドで終わらせずに、
空しさを感じさせることによって
読み手の心に棘のように
主題を突き刺してくる。
考えてみれば
アンデルセンにも「人魚姫」など
同傾向の作品が見られます。
西洋の童話は得てして辛口です。

(2020.3.29)

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