「日本文学100年の名作第1巻 夢見る部屋」

大正期にこのような魅力的な文学が生まれていた

「日本文学100年の名作第1巻
     夢見る部屋」新潮文庫

「日本文学100年の名作第1巻 夢見る部屋」

「父親」荒畑寒村
息子・孝次から移転の知らせを
受け取った父親は、
久しぶりに会おうと汽車に乗る。
まだ若かった頃、
息子は父親と
折り合いが悪かった。
父親が吉祥寺の息子の家を
探し当てると、
息子は留守だった。父親は
息子の妻・お光と語り合う…。

「寒山拾得」森鴎外
官吏である閭は、
任地へ旅立つ直前、
頭痛に襲われる。
どこからともなく現れた
豊干(ぶかん)と名乗る
乞食坊主が彼の頭痛を治す。
豊干に尊敬の念を抱いた閭は、
豊干に出身地台州の偉人を問う。
豊干は「寒山と拾得」と
答えたが…。

この記念碑的アンソロジー第1巻を
再読しました。
もっとも一気にすべてを
読み通したわけではありません。
当ブログで取り上げるために
一篇一篇読み、
先日全作品についての記事を
投稿し終わりました。
素晴らしい作品群だと、
あらためて感じました。

「指紋」佐藤春夫
英国帰りの友人R・Nは
彼の国で覚えた阿片により、
言動が常軌を逸してくる。
彼は米映画に
出演している俳優こそ、
長崎の阿片窟の殺人犯だと
「私」に告げる。
映画で大写しになった指紋と、
懐中時計の蓋の裏に付いた
それは、驚くほど…。

「小さな王国」谷崎潤一郎
貧しい教師・貝島のクラスへ、
沼倉という生徒が転校してくる。
彼は瞬く間に級友を掌握、
学級全員が彼の従僕となる。
やがて彼は
学級内の身分を細かく制定し、
さらに
仲間内だけの紙幣をつくり、
学級は彼の王国と化してゆく…。

「ある職工の手記」宮地嘉六
継母との軋轢に苦しんだ「私」は、
家を出て佐世保の造船所の
少年工として働き始める。
知り合いの善作の家に
住み込むものの、
息子から虐められ、
職場の人間関係にも悩む。
やがて「私」は納屋住みの
職能集団に入り、
職工を目指す…。

森鴎外谷崎潤一郎
芥川龍之介については
有名作品以外から選択し、
さらには現在忘れ去られつつある
佐藤春夫内田百閒
知らない人の方が多いであろう
荒畑寒村宮地嘉六長谷川如是閑
宇野浩二稲垣足穂を並べる。
うっとりとするほどの顔ぶれです。
約100年前の大正期に
このような魅力的な文学が
生まれていた。
驚くべきことだと思うのです。

「妙な話」芥川龍之介
停車場で突然見知らぬ赤帽に
声を掛けられた千枝子。
彼女は赤帽から、
戦地へ赴いている夫のことを
尋ねられる。
数日後、再び彼女の前に現れた
謎の赤帽は、彼女の夫が
戦地で負傷したこと、
そして間もなく帰国することを
告げる…。

」(内田百閒
見果てもない広い原の真中に
起っている「私」。
広野の中で、
どうしていいか解らない。
何故こんなところに
置かれたのだか、
私を生んだものは
どこへ行ったのだか、
まるでわからない。
「私」はからだが牛で
顔が人間の浅ましい化物…。

象やの粂さん
 長谷川如是閑
象やの粂さんは、
今では像の玩具の
露店売りをしているが、
かつては見世物小屋の
象の世話をしながら
いろいろな芸を仕込んでは、
象とともに旅をしていた。
そんな粂さんのもとに、
大金持ちの所有する
象の世話係の話が舞い込む…。

夢見る部屋」(宇野浩二
借家に家族と住む「私」は、
煙草屋の娘との
逢瀬を楽しむため、
東台館という下宿屋の一室を、
家族に知られることなく
借りることに成功した。
蒲団とともに
仕事に必要な机などもしつらえ、
いよいよ部屋ができあがる…。

「黄漠奇聞」稲垣足穂
バブルクンドを制圧した王は、
神々の都にまねて
砂漠に大理石の
壮大な都市を建設する。
ある日、都の空に浮かんだ
三日月を見て、
国の旗印に使った月より
美しいことに王は激怒する。
王は三日月を討ち取るよう
部下に命じるが…。

「二銭銅貨」江戸川乱歩
ある日、「私」の机上の
二銭銅貨が二つに割れ、
中に暗号文が隠されていることを
松村は見つける。
それを解読した松村は、
泥棒の隠し金を手に入れたと
喜び勇んで帰ってくる。
「俺は君より頭がいい」と
豪語する松村に対し、私は…。

「日本文学100年の名作」
その第1巻は、
日本文学の本当の魅力を
堪能できる一冊です。
高校生へ、
そして大人のあなたにお薦めします。

(2020.7.22)

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