「パノラマ島奇譚」(江戸川乱歩)

あまりの異様さ、あまりの美しさ、あまりのおぞましさ

「パノラマ島奇譚」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第2巻」)光文社文庫

「江戸川乱歩全集第2巻」光文社文庫

壮大な地上の楽園建設の
夢想をしていた人見廣介は、
学生時代に自分と瓜二つだった
資産家・菰田源三郎の死を知る。
彼の遺体が土葬されたことを
確認した廣介は、
自らをこの世から消し、
菰田源三郎として
蘇生する計画を立てる…。

乱歩の初期傑作中篇「パノラマ島奇譚」。
あまりの異様さ、
あまりの美しさ、
あまりのおぞましさに、
再読を控えていましたが、
誘惑には勝てませんでした。

今日のオススメ!

本作品の誘惑①
死人と入れ替わる巧妙さ

ミステリでは人物の入れ替わりの
トリックがいくつも見られます。
多くは相手を殺害し、
すり替わるものです。
本作品は、
病死した相手になりすますという
突拍子もないものです。
そのために廣介が実行した方法は
次の三つです。
①自分自身を死体が発見されない形で
 自殺したように見せかける。
②源三郎の遺体を人知れず処分する。
③自身が蘇生した死体として
 成り代わる。
これをたった一人で
短時間のうちに完遂する
その過程がサスペンスに
満ちあふれています。

本作品の誘惑②
美しくもおぞましい描写

廣介が、源三郎の妻・千代子を連れて
二人で巡る
完成したパノラマ島の描写が、
壮絶です。
この描写こそが
本作品の肝の部分なのです。
どこの国とも知れぬ風景、
デフォルメされた自然と
トリックアートの数々、
機械群をはじめとする異様な造形、
ところどころに現れる
裸体の美女たち、…。
パノラマ島はエキゾチック、
エキセントリック、
グロテスク、
エロティックなのです。

本作品の誘惑③
結末は「破滅」ではなく「完成」

もちろん廣介の目論見は
最後に破綻するのですが、
その「自決」の方法が、
パノラマ島に最も適した
演出となっています。
「破滅」ではなく自身の死をもって
「完成」させたことがよくわかります。
主人公・人見廣介は、
ミステリ史上希に見る
自身の設計した犯罪計画を
壮大なまでに完遂させた男なのです。

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さて、巻末に掲載された
乱歩による自作解説には、
本作品が発表当初は不評だったことが
記されています。
なんとなくわかります。
最後に探偵が登場するものの
「おまけ」程度のものでしかなく
「探偵小説」とは呼べず、
終末で千代子を殺害するものの
前半に廣介が行ったのは
死体遺棄と横領だけであり
「犯罪小説」としては弱く、
犯人の側から描かれているため
謎解きは一切なく、したがって
「推理小説」でもないため、
当時の読者からすれば
意味不明なキワモノとしか
映らなかった可能性があります。

しかし本作品こそ
後のグロテスクでエロティックな
傑作長編群の片鱗ともいえるものが
多々見られる、
いわば「プロトタイプ」なのです。
そしてそれとともに、
最初期の傑作短篇から
明らかに脱却しようとした
乱歩の悪戦苦闘ぶりが
随所に見られる作品とも
なっているのです。

成人男性にしかお薦めできない、
超濃密な一遍を、とくとご賞味あれ。

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(2021.1.7)

ComfreakによるPixabayからの画像

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