「ビブリア古書堂の事件手帖2」(三上延)

エピソードを繋ぐ横糸が作品の魅力を高めている

「ビブリア古書堂の事件手帖2」
(三上延)メディアワークス文庫

ビブリア古書堂で
もう一度働くことにした
「俺」のもとに、
奈緒が相談を持ち込む。
奈緒はかつて古書が絡む
トラブルによって
知り合った高校生だった。
妹・結衣の書いた
読書感想文がもとで、
家庭内がぎくしゃく
しているのだという…。

古書や作家に関わる蘊蓄を使って、
これだけのミステリが創造されるのか。
第1作に続いて第2作も読みました。
「ビブリア古書堂の事件手帳」です。
今回も店主・栞子の
名推理が冴え渡ります。
一つ一つのエピソードも
面白いのですが、
それらを繋ぐいくつもの横糸
(それは人であり本であり)が
物語に深みを与えています。

【主要登場人物】
篠川栞子
…ビブリア古書堂店主。
 足がやや不自由。
五浦大輔
…語り手。23歳。
 再びビブリア古書堂店員となる。
篠川文香
…栞子の妹。
小菅奈緒
…第1作での事件により、
 大輔・栞子と知り合う。
小菅結衣
…奈緒の妹。
高坂晶穂
…大輔の元カノ。
 父親の遺した本の処分を依頼。

【本作品の構成】
プロローグ・坂口三千代「クラクラ日記」
第一話・アントニイ・バージェス
    「時計仕掛けのオレンジ」
第二話・福田定一
    「名言随筆 サラリーマン」
第三話・足塚不二雄
    「UTOPIA 最後の世界大戦」
エピローグ・坂口三千代「クラクラ日記」

エピソードを繋ぐ横糸①
栞子の母親の謎

第2作の全編にわたって張られている
横糸は、栞子の母親の存在です。
栞子は母親の話題になると口をつぐむ。
文香は「お姉ちゃんと
うまくやっていきたかったら、
お母さんのことは触れちゃ駄目」と
大輔に釘を刺す。
栞子と母親の間には
何か秘密があるのです。
その手がかりが
坂口三千代「クラクラ日記」という
本にあり、
プロローグで謎の提示が行われ、
エピローグで一定の解明がなされ、
各エピソードの進行により、
栞子の母親の面影が
ぼんやりながらも
浮かび上がるというしくみです。

エピソードを繋ぐ横糸②
現れる大輔の元カノ

第2作では大輔の過去も語られ、
それによって登場人物像に
厚みがもたらされています。
第一話冒頭で大輔が対応に失敗する
国枝史郎「定本蔦葛木曽棧」。
それが第2話への伏線になるなど、
晶穂の依頼した古書の処分は、
大輔と晶穂の過去に
一つの区切りを付けるとともに、
大輔の人となりを
浮き彫りにしていくのです。

エピソードを繋ぐ横糸③
最後にまたもや大輔が謎を解く

本に関わる謎を栞子が解き、
栞子に関わる謎を最後に大輔が解く。
この構成は第1作と同じです。
しかし今回は二人の間に
亀裂は入りません。
むしろ二人の距離は一歩近づきます。

一話完結の集合ではなく、
各エピソードが横糸で繋がり、一つの
長編作品の体をなしているのです。
このあたりが作者の力量の高さであり、
人気の秘密の一つでしょう。

今回は第1作に比べて
マニアックな本が並んでいます。
アントニイ・バージェスはともかく、
坂口三千代は坂口安吾の妻、
福田定一は司馬遼太郎の本名、
足塚不二雄は藤子不二雄の
デビュー当時のペンネームであることが
語られますが、
私にはすべて初めて聞くことでした。
こうしたことも
本好きにはたまりません。

俄然面白くなってきました。
50を過ぎたおじさんが
読むべき本ではないのでしょうが、
心を20代に戻して
次作以降も読んでいきたいと思います。

(2021.8.23)

Paul StachowiakによるPixabayからの画像

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