「西の魔女が死んだ」(梨木香歩)

4つの「西の魔女が死んだ」

「西の魔女が死んだ」(梨木香歩)
 楡出版・小学館・新潮文庫・新潮社

わたしはもう学校へは行かない。
中学進学後、
不登校となった少女まい。彼女は
片田舎に一人で住む祖母の家で
過ごすことになる。
祖母が語る魔女の修行、
その要点は「何事も自分で
決める」ことだった。
まいは祖母との暮らしの中で…。

以前にも書きましたが、梨木香歩
名作「西の魔女が死んだ」には、
おなじみ新潮文庫版(2001年)のほかに、
最初に刊行された楡出版版(1994年)、
その後の小学館版(1996年)、
そして三篇のスピンオフ作品を併録した
新潮社版(2017年)の、
3つの単行本が存在します。
実は私は文庫本と3冊の単行本、
計4冊、すべて持っています。
それぞれに微妙な違いがあるのです。

①楡出版版(1994年)
これが最初に刊行されたものであり、
梨木のデビュー作となります。
本書の特徴の一点目は、
挿絵が数点挿入されていることです
(2年後の小学館版以降は、
この挿絵はカットされています。
ただし、「必要か」と問われると、
疑問符が付きます。
本作品の世界観とは
微妙にずれているような気がします)。
二点目は、
亡くなったおばあちゃんからの
メッセージ
「ニシノマジョ カラ
 ヒガシノマジョ ヘ
 オバアチャン ノ タマシイ、
 ダッシュツ、 ダイセイコウ」
が、
1頁にわたって
掲載されていることです。
これは一つの効果を発揮しています。

②小学館版(1996年)
わずか2年後に出版社を変更して
「新装版」として登場しています。
変更点は、楡出版版の特徴であった
挿絵がカットされ、
メッセージが通常の活字で
本文2行として収められたことです。
本文そのものには変更点を
見つけることができませんでした
(もしかしたら
小さな部分であるかもしれませんが)。
ただし、こちらの版は
本文のかなりの箇所で
改行が加えられています。

③新潮文庫版(2001年)
文庫化された本書は、
メッセージに再び1頁が割かれる形が
復活しています。
それ以外の本文は、改行を含め、
違いを見つけることはできません。
しかしなんといっても印象的なのは、
最後の2行の頁割りです。
191頁目は、
 まいが今こそ心の底から
 聞きたいと願うその声が、
 まいの心と台所いっぱいに
 あの暖かい微笑みのように
 響くのを。
 で、丁度終わり、
頁をめくった192頁目に、最後の一言
「アイ・ノウ」と。 が現れるのです。
この効果は絶大です。
初読の際は、この一言、この一頁で、
大きな感動がこみ上げてきたことを
覚えています。
この作品で私は梨木香歩の世界に
はまり込んだのですが、
それはこの一頁の強大な引力に
捕らえられたと言っていいくらいです。

なお、この新潮文庫版には、
まいが新しい学校でであった友達・
ショウコとの交流を描く
「渡りの一日」が収録され、
これが同時に
まいの後日譚ともなっています。

④新潮社版(2017年)
きわめてシンプルな表紙であり、
梨木作品は、
そのテキストが表現する力が
非常に大きく、
挿絵を含む余分なものは
いらないということがよくわかります。
この単行本でも、最後の2行が、
頁をめくった最後の頁に収まるような
構成となっています(そのために
メッセージの前後に数行の空白を入れ、
行数を調節しています)。

新潮社版には、
スピンオフ作品である
「ブラッキーの話」「冬の午後」
「かまどに小枝を」が収録され、
物語世界を読み手が立体的に
再構成できるしくみになっています。

再出版に伴うテキストの
マイナー・チェンジ(改行等)が、
作者の意向なのか
編集者の創意工夫なのか
よくわかりませんが、
それによって作品が読み手に与える
印象も異なってくると感じます。
本は、そして作品は、
進化していくものなのでしょう。

(2021.10.22)

Larisa KoshkinaによるPixabayからの画像
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