「馬」(長谷川如是閑)

長谷川如是閑、象に続いて馬です。

「馬」(長谷川如是閑)
(「ふたすじ道・馬」)岩波文庫

「ふたすじ道・馬」岩波文庫

可愛がっていた軍馬とともに
退役となった騎兵将校・「少佐」。
彼は自分が職を
失したことよりも、
愛馬・アカツキと離ればなれに
なることの方が幾層倍辛かった。
ある日少佐は、
軍から払い下げられたアカツキを
曲馬小屋で見かけるが…。

以前「象やの粂さん」を取り上げた
長谷川如是閑の作品です。
象に続いて馬です。
如是閑さん、
そんなに動物が好きだったのか。
二作品とも主人公に類似点が多く、
続けて読むと面白さ倍増です。

少佐と粂さんの共通点①
人間よりも動物が好き

粂さんは象にぞっこんなのですが、
少佐もまた「馬」命。
自分の女房よりも
馬のアカツキが大切なのですから、
奥さんが激怒するのも当然です。
そのやりとりが絶妙です。

少佐と粂さんの共通点②
動物と一緒なら何でもしてしまう

粂さんも喜んで
象の家庭教師を引き受けましたが、
少佐は何とすべてを投げ捨てて
曲馬団に入団しようとするのです。
はじめは馬を買い取るつもりでしたが
資金のあてもなし、
それならば自分が、と
曲馬団入りしてしまうのです。
誇りある元軍人が
曲馬団なぞの一員となるなど、
当時は(今でもそうだと思うのですが)
考えられないことでしょう。

少佐と粂さんの共通点③
江戸っ子で酒が好き

粂さんも少佐も酒が大好きです。
酔っ払っては気持ちが大きくなります。
粂さんは雇い主をぼろくそに
こき下ろして立場を悪くし、
少佐は曲馬団入りを
高らかに宣言します。
酒のなせる技です。

少佐と粂さんの共通点④
貧乏でも気にしていない

その日の食物にも
事欠く有様でありながら、
二人とも貧乏を
まったく苦にしていません。
明るくたくましい、
おおらかな精神です。

少佐と粂さんの共通点⑤
実は孤独である

粂さんの家族は娘一人。
その娘も気持ちは父親粂さんから離れ、
雇い主の金持ちへと
向かってしまいます。
少佐には妻がいますが、
妻の心は少佐から離れ…、
いや少佐の眼中に
妻がなかったからでしょう。
いずれにしても二人は孤独です。

さて、
主人公のキャラクターだけでなく、
起き上がった問題が
解決されないまま幕を下ろすという
物語の構成もまた酷似しています。
「象や」は娘が華族の妾に
なるならないで大騒ぎしますが、
実は既に二人ができていたことを知り、
粂さんが唖然としたところで
物語が終わります。
「馬」も泥酔した少佐の
曲馬団入団宣言で閉じるのですが、
素面に戻ったときどうなったことやら。

明治・大正期の文学は
お堅いだけではありません。
極上の娯楽小説も豊富なのです。
長谷川如是閑、
読み継がれていくべき作家だと
思います。

※岩波文庫の日本文学は
 緑色なのですが、本書は青色。
 長谷川如是閑が
 ジャーナリストだからです。

〔本書収録作品〕

(2021.11.11)

Patou RicardによるPixabayからの画像

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