「ふたりのロッテ」(ケストナー)

大人が読んでも十分味わい深いものなのです

「ふたりのロッテ」
(ケストナー/池田香代子訳)
 岩波少年文庫

夏の林間学校で偶然出会った
ルイーゼとロッテ。
二人はお互いを知らぬまま
別々の街で育った
双子の姉妹だった。
ルイーゼは父親と、
ロッテは母親と。
林間学校が終わり、
二人は楽しい計画を実行に移す。
お互いに入れ替わるのだ…。

児童文学の書き手である
ケストナーの代表作です。
「子どもが読むもの」と
決めてかかってはいけません。
優れた児童文学作品は、
子どもが読めば
もちろん面白いのですが、
大人が読んでも
十分味わい深いものなのです。

本作品の味わいどころ①
双子が入れ替わっての大冒険

双子が入れ替わるのは
よくある設定です。
いや、現実の世界でも
ときどき聞くことがあります。
それ自体は
目新しいものではありません。
しかし、それまで
お互いの存在を知らない姉妹どうし、
知らない世界で入れ替わるのですから、
子どもたちが読めば、
ワクワクドキドキの
連続であるはずです。
事前にお互いの身のまわりの情報を
綿密に交換するあたり、
いかにも現実味があり、
読み手もそのスリルを味わうことが
出来るしくみになっているのです。

「そんな馬鹿なこと、
小説だからだろう」と思うようでは、
あなたはすっかり
「心の枯れた大人」です。
子どもたちの冒険心、好奇心、憧れ、
思いやり、空想、
かつて私たちも持っていた
そういうものを、
心の奥底にしまい込んだ
そうしたものを、
もう一度引っ張り出して
いつでも味わい直せるのが、
本当の大人というものです。

本作品の味わいどころ②
子どものよいところを見つめる視点

それまでの境遇ゆえ、
入れ替わりの当初は
うまくいかないことばかりです。
その一方で、
二人がそれぞれ抱えていた
「欠点と思われる部分」が、
お互いに良い方向で
生かされているのが素敵です。
お転婆な少女とみられていた
ルイーズは、
ロッテとして生活する中で、
周囲を助け、明るくする存在として
認められます。
おとなしい女の子であるロッテは、
ルイーズとして暮らすうちに、
堅実な生活の大切さを
周囲の大人たちに理解させていきます。
その描写は、読み手の子どもたちに
必ずや希望を与えることでしょう。

「そんな上手いこと、
創作だからだろう」と思うようでは、
あなたはすっかり
「潤いに欠けた大人」です。
子どもに寄り添おうとする
ケストナーと同じ目線に立って、
子どもたちの存在を認めようとする
気持ちを新たにできる者こそ、
本当の大人というものです。

本作品の味わいどころ③
壮大な両親復縁計画実行

最後は二人の両親が
もう一度よりを戻して
ハッピー・エンドを迎えます。
読みながら先が見えてしまうのは
当然です。
奇を衒ったストーリーを
ケストナーは追い求めていません。
当たり前の幸せを
追求しているのですから。
その姿勢は読み手の子どもたちの心を
必ずや勇気づけるはずです。

「そんな都合のいいこと、
児童文学だからだろう」と思うようでは、
あなたはすっかり
「つまらない大人」です。
家族の形は多種多様にあるものの、
子どもがもっとも
幸せな形になることこそ、
「本当の家族の形」であるはずです。
その上で、
現実世界の「歪な家族の形」に
翻弄されているあまたの子どもたちの
不幸に思いをいたらせるのが、
本当の大人というものです。

岩波少年文庫から出ている本書、
カバー裏には「小学4・5年以上」と
書かれてあるのですが、
小学生どころか中学生に
ぜひ読んで欲しいと思う一冊です。
もちろん大人のあなたにも
自信を持ってお薦めできます。

(2022.3.2)

5311692によるPixabayからの画像
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