
爛れた性愛関係、真相はいったい…
「火の十字架」(横溝正史)
(「魔女の暦」)角川文庫
金田一耕助に届いた
一通の手紙には、
これから起こるであろう殺人が
予告されていた。
手紙が示す浅草パラダイスに
駆けつけていた
金田一と等々力警部の目前で、
運ばれてきたトランクの中から
全裸の女が見つかる。
犯人はいったい…。
先日取り上げた横溝正史「魔女の暦」に
併録されている一作が、
ほぼ同時期に書かれた本作品
「火の十字架」です。
金田一に届いた犯罪を予告する手紙、
指定の場所がストリップ劇場、
そして浅草…。
併録されるだけあって、
「魔女の暦」との共通項が
たくさんあります。
もちろん浅草署の
捜査主任・関守警部補も再登場です。
【事件簿File-059「火の十字架」】
〔依頼人〕
依頼人なし
※殺人予告に遭遇し、
自ら警察(等々力警部)に捜査協力
〔捜査関係者〕
高橋警部補…淀橋署捜査主任。
熊谷医師…星影冴子を診察した医師。
関森警部補…浅草署捜査主任。
橋本医師…浅草署警察医。
神保警部補…下谷署捜査主任。
等々力警部…警視庁警部。
〔事件関係者〕
星影冴子
…浅草・新宿・深川の
ヌード劇場経営者兼ダンサー。
立花・滝本・三村の三人を
情夫としている。
小栗啓三(青木俊三)
…復員服。片脚は義足。元劇団員。
立花良介(花井良太)
…浅草パラダイス・マネジャー。
死体で発見される。
山本五郎
…浅草パラダイス・幕内主任。
滝本貞雄
…新宿パラダイス・マネジャー。
三村信吉
…深川パラダイス・マネジャー。
花園千枝子
…劇団南十字星のヒロイン。
戦時中、空襲で死亡。
富士愛子
…パラダイスのダンサー。殺害される。
緒方竹蔵
…富士愛子の住むアパートの管理人。
権田平蔵
…星影冴子の裸体入りトランクを運んだ
ゴンダ運送店主人。
福田公吉
…ゴンダ運送店の住み込み店員
野上周蔵・金子謙三
…金田一が招いた証言者。
※元劇団南十字星団員:
花園千枝子・星影冴子・富士愛子・
立花良介・滝本貞雄・三村信吉
〔事件発生〕
昭和34年5月(東京)
〔事件の概略〕
5月19日
・金田一のもとに殺人予告の手紙到着。
5月20日
・新宿パラダイスに月影冴子の
裸体入りトランクが運ばれる。
冴子は昏睡状態。
・金田一・等々力がその場に居合わせる。
・浅草パラダイスにて立花良介らしき
死体発見。顔は塩酸による損傷大。
・富士愛子の死体発見。
死亡は立花より先。
5月28日
・富士愛子の遺書発見。
・金田一、二人の証人を捜査陣に紹介、
自らの推理を伝達。
5月29日~6月4日
・第三の死体発見。
・犯人逮捕、事件解決。
本作品の味わいどころ①
判別不能の死体、身元はいったい…
殺害された立花良介は、
塩酸で顔や身体を焼かれ、
判別不能の状態で発見されます。
横溝得意の「顔のない死体」です。
「顔のない死体」の本質は、
「犯人と目されている人物が
実は被害者」という
一つの定石があります。
横溝は、読者のその裏をかく
アイディアを、いつもぶつけてきます。
本作品においても同様です。
殺されたのはいったい誰で、
殺したのはいったい誰なのか、
最後まで読まなければ
わからないしくみとなっているのです。
この、ミステリ定番、
しかしそのヴァリエーション豊富な
「顔のない死体」の謎解きこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
ところで、横溝作品にはこの
「顔のない死体」もしくは
「首のない死体」がたくさん登場します。
金田一ものだけでも
「夜歩く」(1949年)から始まり、
「雌蛭」(1955年)、
「眠れる花嫁」(1956年)、
「悪魔の手毬唄」(1959年)、
「スペードの女王」(1960年)、
「白と黒」(1960年)
(タール漬けで判別不能)と続きます。
「犬神家の一族」(1951年)における
佐清の逆立ち死体もある意味、
「顔のない死体」といえるでしょう。
その逆に胴体のない
「首だけ死体」もあるからさすがです。
「トランプ台上の首」(1959年)が
それにあたります。
本作品の味わいどころ②
爛れた性愛関係、真相はいったい…
本作品は、「魔女の暦」同様の
爛れた人間関係を下地にした作品です。
「魔女」では三人の舞台関係者と
三人のダンサーが内縁関係にある上、
女三人は一人の若い男を
共有するといった
怪しい関係を創り上げていました
(本編を読み進めると
もっと複雑なのですが)。
本作品では冴子一人が三人の情夫を
それぞれの劇場に配置し、一週間ごとに
それぞれのもとで生活するという
「女王様」なのです。
何か起きないはずがありません。
しかしその人間関係は、
もっと複雑怪奇であることが
判明します。
千枝子・冴子・愛子・立花・滝本・三村の
六人が元劇団南十字星団員として
戦時中に恐るべき愛欲生活を
送っていたことが判明し、
人間関係はより一層
複雑化していくのです。
この、金田一シリーズ東京もの特有の
エログロ路線が極まったような、
描かれている爛れた性愛関係こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
明かされる秘密、犯人はいったい…
終盤、たたみかけるように
金田一が証人を繰り出し、
事件の真相を明らかにしていきます。
次から次へと現れる衝撃の事実。
本作品は犯人捜しや
トリック解明といった
読者参加型ではなかったのです。
その筋書きの面白さを堪能すべき
作品なのです。
では犯人はいったい…?
その意外性に、やはり驚かされます。
真相はぜひ読んで
確かめていただきたいと思います。
この、横溝の創り上げた
秘密の底に秘密を埋め込んだような
作品構成こそ、本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

読み終えると、やはり
「魔女の暦」と対になるべき作品だと
感じます。
同じような冒頭から、
まったく異なる人間関係が
あぶり出されます。
長らく絶版状態でしたが、
復刊された今こそ
存分に味わいましょう。
(2022.3.4)
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(2025.7.31)
〔関連記事:金田一耕助の事件簿〕



〔横溝ミステリ・角川文庫〕


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