「アイスクリン強し」(畠中恵)②

もしかしたら現代もまた、世界にとっての大きな転換点

「アイスクリン強し」(畠中恵)
 講談社文庫

西洋菓子職人・真次郎と
元幕臣の巡査たち
「若様組」のまわりには、
なぜか騒動が舞い込んでくる。
元主君の形見を狙う元家臣たち、
貧民窟での空き巣騒ぎ、
「若様組」への誹謗中傷、
突然のコレラ対応と裏捜査。
そして謎の手紙の真相は…。

前回取り上げた畠中恵
「スイーツ」を題材とした
「アイスクリン強し」。
どう読もうとも
面白い作品ではあるのですが、
2011年に書かれた本作品が、
私には不思議と2022年の世情を
映し出しているように
思えてなりません。

【主要登場人物】
皆川真次郎
…東京で洋菓子屋・風琴屋を開業。
 外国人居留地で育つ。
小泉沙羅
…気の強い女学生。真次郎の幼馴染み。
小泉琢磨
…沙羅の父親。成金富豪。
長瀬
…元幕臣の警察官。真次郎の幼馴染み。
 「若様組」の一人。
園山・福田
…「若様組」の巡査。
「若様組」
…元幕臣の巡査たち。
 長瀬・園山・福田の他に数名いる。
相馬小弥太
…元藩士の倅。書生。

【本作品の章立て】
1「チヨコレイト甘し」
2「シユウクリーム危うし」
3「アイスクリン強し」
4「ゼリケーキ儚し」
5「ワッフルス熱し」

本作品が映し出す2022年の世情①
感染症は力なき者にまず襲いかかる

第4話「ゼリケーキ儚し」では、
東京の街に流行してきたコレラが、
貧しい人々を襲います。
手の打ちようのない感染症が、
力の弱い者、貧しい者に、
まずは襲いかかるというその描写は、
近年の新型コロナウイルス感染症の
状況に酷似しています。
さらには感染者に対する
命がけの対応も、
末端の警察官に通常勤務として
負わされています。
これも最前線で限界以上の
対応を迫られている保健所や
最前線の医療現場、
さらには生徒に感染者が出た場合に
検査キットを丸投げされる
学校現場等と重なります。

本作品が映し出す2022年の世情②
海の向こうの争いは経済に反映する

第2話「シユウクリーム危うし」では、
小麦の価格の変動や
需給バランスの変移に気づいた
小泉商会当主・琢磨が、
海外でのきな臭い紛争を予感します。
明治の世の中でも、
経済は戦争と密接な繋がりが
あったのでしょう。
これもロシアによるウクライナ侵略と
燃料価格の高騰との関係を
連想してしまいます。

本作品が映し出す2022年の世情③
良くも悪くも情報は世の中を動かす

第3話「アイスクリン強し」では、
新聞社へのゴシップネタ提供が
情報操作の一つとして描かれます。
これも私たちが現在進行形で
目の当たりにしている、
ロシアによる世界に向けた
情報操作を思い浮かべてしまうのです。

偶然といえば偶然です。
緊迫した状況下であるために
すべてがその暗示のように
思えるからかもしれません。
しかし一見偶然に見える
それらの符合は、作者・畠中恵が
「明治という時代」の風景に対して、
「歴史の大きな転換点を越えた
日本の変化」を、
作品へ周到に埋め込んだ結果として
生じているのです。
単なる「スイーツなミステリ」では
ないことに気づかされます。

もしかしたら令和の現代もまた、
日本にとって、いや世界にとっての
大きな転換点と
なっていくのかもしれません。
そのようなことを
ふと考えてしまいました。

(2022.3.7)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像
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