「黄金機会」(若松賤子)

若松が三つめに選んだ児童作品の手法は「道徳」

「黄金機会」(若松賤子)
(「日本児童文学大系2」)ほるぷ出版

十一歳の誕生日に母から
「黄金機会」(お金を人のために
なることに使う絶好の機会)を
教わった「私」。
折しも祖父から
金貨、銀貨、銅貨を
それぞれ一枚ずつもらう。
その三枚の「富」を大切にし、
黄金機会の訪れるのを待つ
「私」だったが…。

明治の教育家であり、
児童文学作家でもあった若松賤子
その作品を取り上げるのも
今回で三回目となります。
この作品は「忘れ形見」のような、
詩からの翻案でもなく、
「鼻で鱒を釣つた話(実事)」のような、
事実を文章に起こした小説でもなく、
若松が創作した道徳作品なのです。

「私」は祖父からもらったお金を、
人のために使おうと思うのですが、
そこはなにぶんにも小学生、
うまくはいきません。

まずは金貨。
近所の貧しい捨坊の学資に充てようと
お母さんと話し合います。
まさに黄金機会。
でも…。

父とともに下町へ出かけた「私」は、
父の用事の間、
通りかかったおもちゃ屋に
ついふらふらと
入ってしまったのが運の尽き。
店の主人にそそのかされ、
一円金貨で美しい音色を奏でる
風琴を買ってしまうのです。
帰宅してから後悔する「私」。
「アノ………アノこんなもの
 買つちまつたの………
 弾けも何もしないものを………
 モウ黄金……黄金機会が
 なくなつちまつたア――」

でもまだ銀貨があります。
その銀貨、近所の貧しい後家さんが
田舎へ引っ込むというので、
日和下駄を一足贈ろうと
またまたお母さんと相談します。
黄金機会ならぬ白銀機会です。
でも…。

父親と下駄を買いに行く約束をした
その日、
従姉妹が二人やってくるというので、
「私」は畑に涼み場をこしらえようと
夢中になってしまうのです。
二日後に下駄を買いに行こうとすると、
母親から後家さんは
すでに旅だったことを聞かされます。
さらにはふとしたことで
家の障子を壊してしまい、
父親から罰金として銀貨一枚を
取り上げられます。
これで白銀機会まで
失ってしまいました。

二度までも機会を逸した「私」。
後悔しても反省しても、
残ったのは銅貨一枚。
でも「私」はようやくこの銅貨で
黄金機会を得るのです。
その顛末はぜひ読んで
確かめていただきたいと思います。

若松賤子が試行錯誤の末、
三つめに選んだ児童作品の手法は
「道徳」でした。
子どもに人としての正しいあり方を
指し示す小説。
それはここから始まったものと
考えられます。
今なら子どもたちに「ウザい」と
言われそうな作品なのですが、
これが日本児童文学の
一つの形となったのです。
青空文庫で読むことができますので、
ぜひ覗いてみてください。

※ここでも「~しませんかつた」という
 言い回しが気になるところですが、
 これも試行錯誤の結果でしょう。

(2022.3.8)

Nattanan KanchanapratによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「黄金機会」(若松賤子)

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