幸運をもたらしてくれ…ませんでした
「お守り」
(ヴァッサーマン/山崎恒裕訳)
(「百年文庫021 命」)ポプラ社

孤児院で暮らしたクリスチーネは
女中として働き続けるが、
貧しさからは
なかなか抜け出せなかった。
幾度も職場が変わり、
辛い思いばかりしている。
彼女が二十歳の頃、
奉公した老軍人が亡くなり、
彼女はお守りを手渡たされる…。
「わたしなんかよりおまえさんに
ありがたい幸運を
もたらしてくれるかもしれん」。と
手渡されたお守りです。
さぞかしありがたい
御利益があるのでしょう。と、
冒頭だけ読むとつい、
このお守りが不思議な力を発揮し、
彼女を幸せに導いてくれるのでは
ないかと思ってしまいます。
「あしながおじさん」でも
「そばかすの少年」でも、
孤児院出身の主人公はみな
幸せになっているのですから。
全く幸せは訪れません。
クリスチーネには。
お守りをもらった後も、
不幸、不幸、また不幸の連続です。
知り合ったカリクストゥス伍長と
関係を持ち、子を宿すのですが
結婚してはもらえません。
戦争が起き、
カリクストゥスが出征すると、
その友人ポリーフカに言い寄られます。
十五年かけて貯めたわずかな財産を
ポリーフカにすべて巻き上げられます。
カリクストゥスが戦死したと聞き、
ポリーフカに体をまかせてしまいます。
その結果、望まぬ妊娠をするのです。
そして勤め先を解雇されます。
そして彼女は狂乱し、なんと…。
あまりに悲劇的な事件は、
ここでは書かないでおきます。
最終場面では、
生きていたカリクストゥスが、
獄中の彼女と再会します。
「おまえが罪の償いを終えたら、
結婚しよう」。
生まれて初めて優しい言葉をかけられ、
許された瞬間、
彼女には死が訪れるのです。
文学史上、最も不幸せなヒロイン、
クリスチーネ。
これでもかと押し寄せる不幸の連続。
微塵も救われない結末。
読み終えても空しさが残るだけです。
作者・ヴァッサーマンはなぜ
このような陰鬱な作品を著したのか?
その答えは冒頭の数行にあります。
「不思議なことだ。
油が切れれば
ランプの炎は消えてしまうが、
人生はけっしてそうではない。
歓びもなく、憩いもなし。
素敵なこともなければ、
明日への希望もない。
そんな人生でも、
人は生き続けるのだ。」
そうなのです。
どんなことがあっても、
人は生き続けなければならない。
それが本作品のテーマなのでしょう。
少しのことでも
自分の思いどおりにいかなければ
死を選んでしまう若者たちの多い
現代日本にこそ、
本作品は必要なのかもしれません。
(2022.4.20)

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