「恐怖の正体」「博士の目」(山川方夫)

人間と相容れない何かを抱えている登場人物たち

「恐怖の正体」「博士の目」(山川方夫)
(「親しい友人たち」)創元推理文庫

「親しい友人たち」創元推理文庫

金に困った「私」は、
家にあった指輪や首飾りを
高値で古物商に斡旋してくれる
「奴」と出会う。
「奴」は事あるごとに
「私」に屍体の写真を見せ、
「私」の驚き様を楽しんでいた。
いよいよ品物が売れた晩、
「奴」は「私」に…。
「恐怖の正体」

「私」は研究所に
ロレンツ博士を訪ねた。
博士は小舎の中の
130羽の家鴨の、
顔や性質、健康状態まで
すべて把握しているのだという。
窓から家鴨たちを見ていた
博士の目が、
いつの間にか家鴨の
それに変わっていた…。
「博士の目」

前回は山川方夫
「軍国歌謡集」を取り上げ、
その見事なストーリー・テリングについて
書きました。
山川は純文学というよりは
ミステリー作家に近いものを
もっています。
本書「親しい友人たち」は
そうした山川のミステリー色の強い
作品を集めた短編集です。

「恐怖の正体」の「私」は、
さまざまな屍体の写真を見せつけられ、
恐怖のあまり失神までするのですが、
彼が怖れていたのは
屍体そのものではありませんでした。
例によって衝撃的な結末が訪れ、
「私」は写真ではない本物の屍体を、
「ふん。棒きれじゃないか、
ただの。」と、
何の戦慄もなく靴先で蹴りつけます。
「私は、屍体じゃなく、
 そこに感じられる人間の、
 突拍子もない生命のふしぎさ、
 残酷さがこわかっただけの話なんだ。」

「博士の目」の「私」は、
ロレンツ博士から、
異端となった家鴨と
その家鴨を最後まで介抱した
ミセス・デーヴィスの逸話を聞きます。
そのとき博士の目が変化したのを見て、
「私」は背筋を寒くします。
博士は自身のことをこう告げます。
「じつのことをいえばね、
 人間という動物は、
 私には複雑すぎるのです。
 私は、むしろ魚や鳥の
 仲間なのです」

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形はちがえども、両者の登場人物は
人間と相容れない
何かを抱えているのです。
人間でありながら。

「軍国歌謡集」の「私」も人間的な感情に
乏しいところがありました。
もしかしたら
こうした「人間嫌い」的な特質は、
作者・山川自身が抱えていた
心の闇の部分だったのかも知れません。
だからこそ、山川の作品は
ミステリー色をどうしても
帯びてしまうのかも知れません。

もし、山川に小説を創る時間が
もう少し残されていたなら、
その闇の正体が
明らかになるような作品を
書き上げていたのではないかと
思われます。

(2019.10.14)

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