「空気男」(江戸川乱歩)

乱歩の創造に、読み手の想像が刺激されます

「空気男」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第2巻」)光文社文庫

同じ下宿屋の隣同士の
北村五郎と柴野金十は、
お互いに暇を弄んでいた。
その慰みとしてそれぞれ
探偵小説を書き上げるが、
意外にもそれが売れ始める。
二人は探偵小説作家として
様々な試みを繰り広げるが、
次第に飽き始めて…。

1926年に「二人の探偵小説作家」と
題されて連載が開始された
江戸川乱歩の一作なのですが、
残念ながら
未完のうちに終わってしまい、
現在ではほとんど
顧みられることのない作品です。
しかし乱歩作品は、
「畸形の天女」「女妖」のように、
未完であれ、その展開を
期待せずにいられない
面白さがあるのです
(ただしその二作品は、
未完成ではなく、
他の作家との共作の冒頭部分)。

【主要登場人物】
北村五郎
…暇を弄ぶ下宿人。
 探偵小説作家となる。
柴野金十
…暇を弄ぶ下宿人。
 探偵小説作家となる。
 早発性痴呆症の疑いあり。
河口
…挿絵画家。妻の善子が亡くなって
 一月後、情人のお琴を家に入れる。
お琴…河口の内縁の妻。
芳子…河口の亡妻。

今日のオススメ!

本作品の展開を期待させる面白さ①
「空気男」柴野はどうなるのか

本作品は、どちらかというと
北村サイドから描かれています。
ところが表題は「空気男」。
したがって、北村から
「君は証拠はないけれど
空気で感じているのだ。
君は空気男なんだよ」と命名された
柴野こそ、本作品の主人公であり、
今後の展開の鍵を握る存在なのです。
「空気男」はいったいこの後、
どんな役割を担わされていたのか?
乱歩の創造に、
読み手の想像が刺激されます。

本作品の展開を期待させる面白さ②
北村は柴野をどう陥れるのか

そのように北村が
柴野に暗示をかけている以上、
この後の展開としては
北野が何らかの形で柴野を窮地に
追いやる(犯罪の容疑者として)ことは
明らかです。
ではどんな罠が仕掛けられるのか?
本文中にも二人の関係が破綻し、
犯罪が起こることが明記されています。
ではいったい
どんな犯罪が繰り広げられるのか?
乱歩の創造に、
読み手の想像が刺激されます。

本作品の展開を期待させる面白さ③
河口一家はどう関係するのか

本作品は十章までが書かれて、
絶筆となっています。
その最後の第十章に突如登場するのが
河口とお琴。
妻が亡くなって一ヶ月後に
お琴を家に入れるという
常識外れのことをする以上、
この河口が
北村と何らかの関わりを持ち、
犯罪に巻き込まれるのでしょう。
おそらくは被害者として。
その加害者に柴野が
仕立て上げられるのが推察できます。

その前段で、
北野は情死を素材とした小説の筋書きを
柴野に話して聞かせます。
そこから考えるに、
柴野はお琴と関係を結び、
情死に見せかけて
お琴を殺害するような筋書きが
おぼろげに浮かんできます。
乱歩の創造に、
読み手の想像が刺激されます。

さて、本作品はその数年後、
「ぺてん師と空気男」として完成します
(ただし設定や筋書きは
大幅に変更されている)。

今日のオススメ!

それとは別に、本作品は本作品として
十分愉しめる内容なのです。
その作家のファンであるならば、
未完成作品も愛おしく思えるはずです。
すべての乱歩愛好家にお薦めします
(乱歩ファンなら
とうに読んでいると思われますが)。

(2022.7.15)

Khusen RustamovによるPixabayからの画像

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