「生命の大進化40億年史 古生代編」(土屋健)

進化の大爆発、このドラマをぜひ愉しみましょう

「生命の大進化40億年史 古生代編」
(土屋健)講談社ブルーバックス

「生命の大進化40億年史 古生代編」

古生代が始まった時、
生命の舞台は海域だけでした。
しかし生命は
進化を重ね多様化し、
陸域へと進出します。
そうして築かれた生態系は、
一度リセットされます。
生命誕生から
古生代の終わりまでの37億年間に
何があったのか?…。

生命の歴史と進化の過程には、
ドラマがあります。
そのドラマを、
最新の研究結果を踏まえて
全3冊で編み上げようとするのが
本書「生命の大進化40億年史」です。
本書はその初刊である「古生代編」。
多様な生命が爆発的に進化・発展した、
最も面白い年代であり、
愉しみどころが満載です。

〔本書の章立て一覧〕
はじめに
地質年代
第1章 はじまりの時代
    先カンブリア時代
第2章 爆発的進化の時代
    カンブリア紀
第3章 先駆者たちの時代
    オルドビス紀・シルル紀
第4章 革命の時代 デボン紀
第5章 終焉の時代 石炭紀・ペルム紀
おわりに
参考資料・索引
※くわしくはこちらから(講談社HP)

本書の愉しみどころ①
初心者向けの丁寧な解説

いきなり古生代の生物について
書かれてあるわけではありません。
地質年代を図版で説明し、
先カンブリア時代(古生代以前)の
生命誕生の概略を示し、
古生代の生物進化に
スムーズにつなげています。
これなら文系の方にも
分かりやすいはずです。

中学校の理科では、「古生代」という
言葉は登場するのですが、
「その示準化石がサンヨウチュウと
フズリナ」であることが
示されるのみで、
ちっとも面白くないのです。
古生代は「カンブリア紀」
「オルドビス紀」「シルル紀」「デボン紀」
「石炭紀」「ペルム紀」と
6つにさらに分かれ、
それぞれで生物群が、
進化・発展を競い合っていることが
俯瞰的に示されているのです。
このドラマをぜひ愉しみましょう。

本書の愉しみどころ②
一目で分かる図版が豊富

「カラー図説」と銘打たれているとおり、
本書はかなり多くの頁に
カラー図版が取り入れられ、
視覚的な分かりやすさを
獲得しています。
ペラペラと頁をめくるだけで
十分に愉しめます。
古生物の化石の写真だけでなく、
化石からの復元図が素敵です。
古生代はこんな世界だったのかと、
目から鱗が落ちるようです。

最新の研究の成果が反映され、
例えば「ハルキゲニア」の復元図が、
1970年代に最初に示されたものから、
現代では上下と前後が
入れ変わったことを解説するくだり
(P.62-68)は勉強になります。

ただし、そのために値段が高い
(税込み1760円、
新書本としては高額)のが
玉に瑕でしょうか(それだけの価値は
十分にあるのですが)。

本書の愉しみどころ③
分かりやすく軽妙な語り

著者・土屋健氏は、ベストセラー
「リアルサイズ古生物図鑑」で
おなじみの軽妙洒脱な語り口で、
本書でも
読み手をぐいぐい引きつけます。
外見がイカによく似た
「ネクトカリス」については
「まさしくイカである。
現代のスーパーの食品売り場に
並んでいたり、炙られて酒の友として
供されても何ら違和感はないだろう」、
「オウムガイ類」については、
「アンモナイトはともかくとして、
オウムガイ類を食べたことのある
読者は…少ないだろうけれども、
味云々は別として」などと、
思わず笑える名解説が
ここでも披露されます。

土屋氏は研究者ではないものの、
日本古生物学会会員であり、
古生物に関する著書を
多数執筆するとともに、
古生物学に関わる「裾野を広げる活動」を
行っているサイエンス・ライターです。
専門の研究者はどうしても書くことが
専門的すぎて
一般の人間にはわかりにくいことが
多いと思います。
土屋氏のように、
専門的学術領域まで一般人を導く
水先案内人の存在は
どうしても必要になります。

来年春には「中生代編」、
そしておそらく再来年の春には
「新生代編」が出版される見通しです。
これら続編の刊行を
楽しみに待ちたいと思います。

〔ブルーバックスについて〕
2017年に出版された土屋氏による
「カラー図解
古生物たちのふしぎな世界」

内容的に重なる部分が多いのは
仕方ないでしょう。
私は両方愉しんでいます。

〔「リアルサイズ古生物図鑑」について〕
「リアルサイズ古生物図鑑」も
「古生代編」「中生代編」「新生代編」と
三部作です。
本書をそれらと比較して読むと、
より立体的に古生物の世界を
捉えることができるはずです。

〔より詳しい書籍〕
技術評論社から刊行された
「古生物ミステリー」全10巻が
面白そうです。
私はまだ買っていませんが、
いずれ購入して
愉しみたいと思っています。

(2022.10.11)

〔追記〕
「中生代編」買いました。読みました。
こちらもお薦めです。

(2023.4.18)

동철 이によるPixabayからの画像

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