「城の人々」(チャペック)

同情できるかといえば、決してそうではない

「城の人々」(チャペック/石川達夫訳)
(「百年文庫056 祈」)ポプラ社

「百年文庫056 祈」ポプラ社

住み込みの家庭教師・オルガは
打ちひしがれていた。
意地悪な子ども・マリー、
腕白な男の子・オスヴァルト、
泥棒扱いする伯爵夫人、
すべての人間に疲れていた。
仕事を辞める理由が欲しかった。
そんな中、
田舎の母からの手紙が届き…。

「ロボット」で有名な
カレル・チャペックの短篇です。
「城」という狭い社会の中で、
人間関係に疲れ果てた若い娘・
オルガの苦悩が綴られています。

【主要登場人物】
オルガ
…城住み込みの家庭教師。若い娘。
 田舎の家庭は貧しい。
 マリーの受け持ち。
伯爵…城の主。老人。
伯爵夫人…きつい性格。高圧的。
マリー
…伯爵の娘。意地悪な性格。
 オルガの授業を嫌っている。
オスヴァルト
…伯爵の息子。腕白な正確。
ケネディー
…オスヴァルトを受け持つ
 住み込み家庭教師。

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描かれているオルガの苦悩は
どのようなものか?
マリーはオルガのいうことを聞かず、
伯爵はそれに対して
娘の肩を持つばかり、
オスヴァルトはオルガの大切にしていた
スカートを汚してしまい、
伯爵夫人はオルガの部屋に入って
洋服箪笥の中をかき回す、
ケネディーは夜ごと部屋を訪ねてくる。
すべてがオルガの神経を
苛立たせるのです。

仕事を辞めるつもりで
荷物をまとめるのですが、
「辞める」の一言を切り出せずに
また苦悩するのです。
そのとき到着した
田舎の母親からの手紙。
それを「帰らなければならない」口実に
できると思ったオルガですが、
手紙の中身は…、
「父親が心臓病で倒れた、
興奮させるのが一番よくないので
絶対に帰ってくるな」という
ものだったのです。
絶望的な気持ちになるオルガです。

さて、オルガに同情できるかといえば、
実は決してそうではないのです。
一つは、城住み込みの家庭教師は、
決して待遇の悪いものではないのです。
多くの貧困家庭の子女が
労働条件の悪い工場などで
非人間的な労働を強いられている中、
オルガの境遇は
かなり幸せな方なのです。
だからこそ、オルガも辞めることに
躊躇せざるを得ないのです。

もう一つは、
人間関係づくりのまずさは、
オルガの側にも問題があるからです。
彼女は高い志をもって
家庭教師という仕事に就きました。
「熱心で、ペダンティックで、
 たくさんの知識を引っさげた彼女は、
 当初、情熱をもって
 教育に身を投げ出した。
 彼女は、教育の意義に、
 とてつもない信念を抱いていた」

しかしそれがまるごと子どもに
受け入れられるはずはありません。
空回りして当然なのです。

そして彼女は周囲の人間を
ことごとく軽蔑しています。
オルガ寄りの目線で綴られた
本作品の表現には、
人間の短所ばかりが記されています。
それは
伯爵家の人間に対してだけでなく、
同じ立場のケネディーに対しても
辛辣であり、
他の女中たちに対しては
見下してさえいるのです。
このような感覚の人間が、周囲から
受け入れられるとは思えません。

さて、帰るに帰れなくなった
オルガはどうなったか?
夜ごと現れ、そのたびに
追い返していたケネディーに対して、
その足音が聞こえるやいなや、
入り口の鍵を開け、
ドアを半開きにしておくのです。
そして次の一文で、
物語は幕を閉じます。
「娘はまた熱いベッドに横たわり、
 もはや何の救いもない者のように、
 恐ろしい期待を抱きながら
 じっとしているのだった」

それは新しい人間関係を
構築しようとする
オルガの変容の表れなのか、
あるいは絶望の果ての
投げやりな行動なのか、
いかようにも読み取れそうです。
本書のテーマ「祈」から推察すると
前者のようですが、本作品が元来、
短篇集「苦悩に満ちた物語」の
一篇であることを考えると
後者のようでもあります。
さて、あなたは
どのように読み取るでしょうか。
チャペックの「祈り」にも似た一篇、
いかがでしょうか。

〔本書収録作品〕
春雪 久生十蘭
城の人々 チャペック
 アルツィバーシェフ

(2023.1.18)

Oleg MityukhinによるPixabayからの画像

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