改めて漱石作品の魅力に気づかされました
「文豪ナビ 夏目漱石」（新潮文庫編）
新潮文庫
漱石が残したたくさんの名作は、
一つ一つが、
新しい世界へ読者を導く｢門｣だ。
｢生きる｣ことの道程に
そびえ立つ｢門｣。
いくつもの門をくぐるうち、
自分のことが、
漱石という人が、
そして思うままにならぬ
｢生きる｣ことの意味が…。
｢漱石は敷居が高い。｣と
洩らした知人がいます。
読み始めるのに
それなりの覚悟が必要なのだそうです。
確かに気軽に読める作品では
ないかも知れません。
｢今さら漱石なんて。｣と
つぶやいた知人もいます。
｢今さら｣とは
｢この歳になって｣という
ことなのでした。
夏目漱石を読むことには、
中高生が読書感想文を書くために
読むような印象が
付きまとうのでしょうか。
漱石を敬遠しているそんな大人たちに
ぜひ薦めたいのが本書です。
新潮文庫の漱石作品を全て読んだ私も
改めて漱石作品の魅力に
気づかされました。
本書でわかる漱石の魅力①
日本語の美しさとテンポの良さ
漱石作品は読むまでの
心理的ハードルは
高いかも知れませんが、
読み始めると意外にすらすら
読むことができます。
格調の高い日本語であり、
難解な言葉も登場するのですが、
心地好く読めるような、
文章にリズムがあるのです。
本書の中の
｢声に出して読みたい夏目漱石｣に、
そのエッセンスが
実によく抽出されています。
紹介されているものの中でも
やはり｢坊っちゃん｣そして｢草枕｣は、
日本文学の中でもっとも
｢声に出して読みたくなる｣名文だと
感じます。
本書でわかる漱石の魅力②
現代でも通用する普遍的テーマ
100年経っても読み継がれる理由は、
｢人間の在り方｣への
問題提起にあるのでしょう。
自らの苦悩を素材としているため、
主題は重くなりがちです。
しかし漱石の苦悩の原因となっている
｢明治の日本の文明的矛盾点｣は、
未だに解決されていないのです。
だからこそ漱石の提示する主題は、
現代人でも十分に
共感できるのだと思います。
本書の｢評伝 夏目漱石｣から
再認識させられました。
現代でも十分に通じる主題を持つ
作品の代表格は、やはり
｢こころ｣そして｢明暗｣でしょうか。
古びることのない価値を持つ
名作だと思います。
本書でわかる漱石の魅力③
一編一編が輝きを放つ作品群
漱石の残した作品の数は
決して多くはありません。
昭和の時代の売れっ子作家･
赤川次郎や西村京太郎に比べれば
微々たるものです。
それでも一つ一つの作品が
強烈な輝きを放っているのです。
漱石の職業作家としての活動期間は
わずか10年に過ぎないのです。
その10年に、
自身の魂から苦しみを絞り出して
濃縮したような作品群です。
存在感が違います。
これについても
｢評伝 夏目漱石｣を読むと、
そのあたりの事情が詳らかとなります。
漱石作品のすべてが
輝きを放っているのですが、
中でも｢夢十夜｣そして｢抗夫｣は、
異質な輝きを放っているように
感じます。
漱石作品をほぼ読んだ
(新潮文庫刊の漱石はすべて読んだ)
私自身、本書を読んで、いくつかの
作品を再読したくなりました。
おそらく｢漱石なんて｣と思っている方や
漱石未体験の方、
中学生高校生に広くお薦めできる
｢漱石入門書｣です。
ぜひ本書を
｢漱石への入口｣としてみてください。
〔追記〕
内容の全てが素晴らしい…と
自信を持って言えない点が
惜しまれます。
｢超早わかり！漱石作品ナビ｣は、
あまりにも｢超早わかり｣に
徹したあまり、
内容が雑になってしまっています。
特に｢草枕｣の紹介で、
｢主人公は那美という
風変わりな女性｣の記述には
疑問が残ります。
主人公は語り手の｢余｣であるはずです。
しかしながら、
そうした点を差し引いても、
なお価値のある企画本だと
考えられます。
（2023.1.17）
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