「やさしい日本語―多文化共生社会へ」(庵功雄)

外国人ではなく、私たち日本人に必要なこととして

「やさしい日本語―多文化共生社会へ」
(庵功雄)岩波新書

「やさしい日本語―多文化共生社会へ」

「日本語」という道具を
習得しない限り、
日本の小中高で
教えられている内容を
身につけることはできません。
しかも、
この相対的に困難なことを
成し遂げられなければ、
外国にルーツを持つ
子どもたちが
日本で自己実現できる道は…。

「日本語」に関する見方考え方について
書かれた本を読むのが好きで、
当ブログにも
いくつか取り上げてきました。
本書もそうした「日本語論」の一つと考え
購入したのですが、
読んでみるとやや方向性が
異なっていました。
サブタイトルの
「多文化共生社会へ」の方が、
本書の論旨の
大きな部分を占めています。
最近読んだ新書本の中で、
もっとも勉強になった一冊です。

まえがき
第1章 移民と日本
第2章 〈やさしい日本語〉の誕生
第3章 〈やさしい日本語〉の形
第4章 外国にルーツを持つ子どもたちと
    〈やさしい日本語〉
第5章 障害をもつ人と
    〈やさしい日本語〉
第6章 日本語母語話者と
    〈やさしい日本語〉
第7章 多文化共生社会に必要なこと
あとがき
付録〈やさしい日本語〉マニュアル
参考文献
※詳しくはこちらから(岩波書店HP)。

今日のオススメ!

ここで前提となっているのは、
「日本が移民受け入れに
大きく舵を取り、
私たちの身のまわりに
移民の方が当たり前に存在するように
なったとき」ということです。
いろいろな意見が
あるかと思うのですが、
私はこれからの日本と日本人が、
決して避けて通られない道だと
考えています。

現在進行している「少子高齢化」は、
先日来新聞紙面に現れている
「異次元の少子化対策」などで
乗り切れるものではないことは
明らかです。
おそらくは人口を
一定地域に集約するという
「コンパクト・シティ化」、もしくは
移民を大量に受け入れ、
日本人と同等の待遇
(法律面でも給与面でも)を与えるという
「移民受け入れ政策」の、
いずれかしかないはずです。
しかし前者は、
住み慣れた土地や
自らの所有権のある土地を手放し、
半強制的に人口を集約するなど、
ほぼ「社会主義的政策」です。
現実的には後者の選択と
いうことになりそうですが、
人口減を補完するほどの
移民受け入れには、
「社会の不安定化を招く」という側面が
ついて回ります。
本書の「やさしい日本語」推進の提言は、
そうした不安を解消し、
未来の日本を創り上げていくために
大きく役立つものと信じます。

「社会の不安定化を招く」原因は
どこにあるのか?
確かにアメリカや欧州における
移民の問題を見ると、
不安になるのはもっともです。
しかしそれは移民の方ではなく、
むしろ受け入れる国の国民の側にこそ
問題があるのです。
いつもの粗筋の代わりに掲げた
本書「まえがき」からの抜粋が
すべてです。
外国からの労働者、
そしてその子弟に対して
きちんとした教育を与え、
日本人と同じ権利と待遇を
与えることこそ重要なのです。
そしてそのために大切なのが
「やさしい日本語」なのです。

「やさしい日本語」なるものが
どのようなものかは、
本書を読んでいただくものとして、
私が大いに勉強になったのは、
「やさしい日本語」は
何のために必要かという
根本的な部分での説明です。
日本に定住する外国人のためか?
そうではなく自分自身のためなのです。
「外国人に伝わるように
 自分の日本語を
 調整するという行為は、実は、
 自分の言いたいことを
 相手に聞いてもらい、
 相手を説得するという、
 母語話者にとって最も重要な
 言語能力の格好の
 訓練の場になるのです」

外国から来る方々のためにではなく、
相手が外国人であれ障害者であれ
子どもであれ高齢者であれ、
自らの考えを正確に伝え、
相手の同意を正しく得て、
相手の協力を得ながら、
自らの行動を押し進めていくためには、
こうした「やさしい日本語」のスキルは、
誰にでも必要であり
重要であると考えます。

義務教育では
英語教育ばかりが重視されています。
しかし日本人同士でも
コミュニケーションを正しくとれない
子どもたちが増えています。
この状態で教室に
「外国にルーツを持つ子どもたち」が
来たとき、
間違いなくトラブルが多発することは
目に見えています。
まずは大人である私たちが、
こうした今日的課題に
関心を持つことが必要でしょう。
高校生に、そして大人のあなたに
強くお薦めしたい一冊です。
ぜひご一読下さい。

〔庵功雄氏の「やさしい日本語」〕
著者・庵功雄氏の「やさしい日本語」の
考え方や活動、情報が、
ネット上にたくさんありました。
本書とともに活用すると、
より多くのことが学べそうです。

「庵功雄のホームページ」
氏自身のホームページです。
「リンク集」から拾い上げていくと
有益な情報が多々見つかります。

「やさしい日本語のホームページ」
氏が主催する「やさしい日本語」
研究グループのホームページです。

「してあげる、ではなく
     私自身のためにする」
リクルートによる
氏へのインタビュー記事です。

(2023.1.24)

b13923790によるPixabayからの画像

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