「彼岸過迄」(夏目漱石)②

スタイルとしては探偵小説、いやミステリです。

「彼岸過迄」(夏目漱石)新潮文庫

「彼岸過迄」新潮文庫

敬太郎は、
大学の友人の叔父・田口に
就職斡旋を依頼する。
田口は初対面である敬太郎の
人物を確かめるため、
ある仕事を命じる。
それは、小川町の停車所に降りる
ある男の、降車後二時間の
行動を調べて
報告するというものだった…。
「停留所」

敬太郎は田口に
探偵の結果を報告する。
意外なことに、
調査の対象者・松本に、
紹介状を書くから
会ってみろと言われる。
敬太郎は松本の家を訪れるが、
今日は雨だから
面会できないと断られる。
晴天の翌日、
再び松本宅を訪れると…。
「報告」

夏目漱石の本作品について、
昨日はこのように記しました。
「これだけは断言できます。
本作品は紛れもなく長編小説です」。
それから一夜明けて、
このようなことを書くのは
甚だ矛盾しているのですが、
六篇からなる本作品の
第二篇「停車所」+第三篇「報告」。
この二篇の集合体は、
スタイルとしては探偵小説、いや
ミステリです。

〔主要登場人物〕
田川敬太郎
…主人公。
 大学卒業後、職を探している。
森本
…敬太郎と同じ下宿に住んでいた青年。
 夜逃げ。ステッキを敬太郎に譲る。
須永市蔵
…敬太郎の友人。敬太郎から
 職探しについて相談される。
田口要作
…須永の叔父。
 敬太郎に奇妙な仕事を依頼する。
田口千代子
…要作の長女。
 須永とは従妹にあたる。
松本恒三
…敬太郎が田口から命じられた
 探偵の対象者。高等遊民。

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敬太郎は田口から
調査の指示を封書で受け取ります。
口頭でもなく電話でもなく、
後日わざわざ手紙による調査指示です。
このへんから
ミステリアスな雰囲気が漂います。
ターゲットは16時から17時までの間に
小川町停車所に降りる四十恰好の男
(実は松本)。
黒の帽子に外套、
背の高い痩せぎすの紳士、
眉と眉の間に大きな黒子があるという。
これもまたミステリアス。
男の名前も知らされず、
調査の目的も知らされない。
ますますミステリアスです。

敬太郎が停車場に張り込んでいると、
なにやら怪しげな女性(実は千代子)が
現れます。
敬太郎はついつい
彼女に気をとられてしまいます。
予定の17時を過ぎても男は現れない。
それではその女を見張っていようか…、
と敬太郎が考えたとき、
ようやく男は現れるのです。
このあたりもミステリアス。
そして男は何と敬太郎が見とれていた
謎の女と接触し、
一緒にレストランへ。
この展開ももちろんミステリアスです。

さらに、この張り込みの
成否を左右したアイテムは、
なんと失踪した友人・森本の遺した
蛇の頭の彫られたステッキ。
これ自体もミステリアス。
加えて占い師の予言どおり、
このステッキが張り込む正しい方角を
指し示したのですから
いよいよもってミステリアス。
ミステリだけではなく、
ホラーやSFの要素も見えてくるのです。

そうです。
まさしく第二篇「停車場」と
その種明かしをする第三篇「報告」は、
文豪漱石の遺した探偵小説、いや
ミステリ小説なのです。
登場人物こそ「雨の降る日」以降の
作品につながっているのですが、
筋書き自体は関係性が薄いのです。
というよりも無くても筋書き上、
特に問題がないのです。
この二篇だけで、
しっかりと独立させても
何ら問題はありません
(一部、森本の記述があり、
第一篇がなければ
つながらないのですが)。

〔青空文庫〕
「彼岸過迄」(夏目漱石)
〔本作品の構成〕
「風呂の後」
「停留所」
「報告」
「雨の降る日」
「須永の話」
「松本の話」
(「結末」)

本作品の六篇は
すべて趣が異なります。
だからこそ、
「連作短編集」の形をとったのでしょう。
一話一話が独立しつつも、
登場人物の織りなす人間模様は
複雑にからみながら、
その頂点である「須永の話」へと続き、
そして「結末」へと収束していきます。
「連作短篇集」の形を取りながら、
「長編小説」としても完成され、
かつ単独でも成立している。
しかもミステリとしてのテイストまで
漂わせている。
やはり本作品は、
漱石の傑作であることに
間違いはないのです。

(2023.3.28)

Antonios NtoumasによるPixabayからの画像

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