「名月一夜狂言」(横溝正史)

人形佐七捕物帳017

四つの証拠が四人の別の人物を指し示す

「名月一夜狂言」(横溝正史)
(「名月一夜狂言」)創元推理文庫

「名月一夜狂言」創元推理文庫

「名月一夜狂言」(横溝正史)
(「完本 人形佐七捕物帳一」)
 春陽堂書店

「完本 人形佐七捕物帳一」

「名月一夜狂言」(横溝正史)
(「幽霊山伏」)出版芸術社

「幽霊山伏」出版芸術社

風流好きの隠居が催した、
各界の著名人を集めた月見の会。
その途中、参会者の一人が
井戸の中から死体で発見される。
現場から見つかった
四つの証拠品は、
残る四人それぞれが
犯人であることを
指し示していた。
同席していた佐七は…。

横溝正史の傑作時代物ミステリ、
人形佐七捕物帳の第十七話です。
歌舞伎役者や狂言作者、
浮世絵師などが集まる風流の会に
招かれた人形佐七。
どう考えても場違いな集まりの中、
どう考えてもおあつらえ向きの
殺人事件が起こるのです。
本作品では活劇的要素は控えめで、
佐七の名推理が光ります。

【捕物帳〇一七「名月一夜狂言」】
結城閑斎

…風流好きの旗本のご隠居。
 役者芸人衆と人形佐七を招いて、
 月見会を催す。
尾上新助(音羽屋)
…役者。四十二三の
 脂の乗りきったいい男。
瀬川あやめ
…役者。売り出し中の人気女形。
 匂やかな姿。
並木治助
…売り出し中の狂言作者。
 怪談物を得意とする。三十五六。
歌川国富
…浮世絵師。五十五六。
 町医者風の風貌の老人。
桜川孝平
…幇間。酒太りした中年の男。
「陰気な女」
…佐七に尾上新助宛の手紙を託す。
神崎甚五郎
…八丁堀の与力。月見会に招かれる。

…佐七の乾分。
佐七
…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
 月見会に招かれる。

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本作品の味わいどころ①
限定された人物、みな怪しい行動

戦後の横溝作品であれば、
多数の登場人物が
みな怪しい存在であり、
最も怪しさのない人物が
真犯人であることが多く、
読み手による犯人捜しを
困難にしています。
ところが本作品の場合、
登場人物が限定的で、
月見会の参会者以外は
佐七が夜道で出会った
「陰気な女」だけなのです。
そのすべてが怪しい行動を取り、
しかも四つも見つかった証拠品は、
それぞれが別の四人を
指し示しているのですから、
犯人は絞りきれないのです。
証拠が見つからない事件も
厄介なのですが、
証拠が見つかりすぎる本事件、
佐七がそれらを使って
どう推理を組み立てるのか、
佐七の名推理を、
まずはじっくり味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
謎の女の正体は?動機は怨恨か?

クローズアップされてくるのが、
佐七が夜道で出会った「謎の女」。
女から手渡された手紙には、
怨恨とも読める文面が
したためられてあったのです。
証拠が指し示す四人は、
すべて人殺しなどできる
人柄ではないのです。
では犯人は「謎の女」による外部犯行か?
それではあまりにもミステリとして
面白くはないでしょう。
ではいったい真犯人は誰?
殺人とその周囲の出来事を
丹念に解きほぐす、
佐七の名推理を、
次にしっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
背後に悲劇あり、人情的な後始末

やはり事件の背後に、
過去の悲劇が隠れていたのです。
真犯人を炙り出すのは佐七ですが、
その後始末に人情を加えるのが
神崎甚五郎です。
時代物らしく、
最後は上手に人情話まで昇華させる、
横溝正史の得意の展開を、
最後に丹念に味わいましょう。

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それにしても、四つの証拠が
四人の別の人物を指し示す構成、
それを可能にするトリックと筋書き、
他ではなかなか味わえないものです。
月見団子以上に味わい深い本作品を、
ぜひご賞味あれ。

(2024.3.22)

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(2024.4.6)

三つの収録本それぞれに編集ミスあり

昨年(2023年)末に
創元推理文庫から本作品を表題とする
「名月一夜狂言
人形佐七捕物帳ミステリ傑作選」が
刊行されました。
すでに春陽堂書店から出された
全十巻「完本 人形佐七捕物帳」を
所有しているので、
本書は必要ないと思いながらも、
すぐに品切れ・絶版となる
創元推理文庫ですので、
念のためと思って購入しました。
買って正解です。
「完本」とはテキストが
微妙に異なるのです。
改稿癖のある横溝ですが、
人形佐七もその例に漏れません。
「完本」がその「最終完成形」を意識して
編集したのに対し、
本書は初出誌に遡り、「原典」として
編集したとのことなのです。

さて、本作品における本書と
「完本」「幽霊山伏」の
テキストの違いはどの程度のものか?
ルビや漢字の開きは別として、
「完本」「幽霊山伏」の冒頭部分に
「このじぶんには、
豆六は弟子入りしていなかった」が
加えられた程度なのですが…、
両者に編集ミスと思われる部分が
見つかりました。

創元推理文庫のP.46、浮世絵師の台詞
「役者衆の似顔絵は
 ちとかきあましたから…」

意味が通じません。
何のことかと「完本」「幽霊山伏」を
参照すると正しくは
「役者衆の似顔絵は
 ちとかきあましたから…」

「き」一文字が脱落しているのです。

一方、春陽堂書店・出版芸術社の方は
もっと深刻です。
「完本第一巻」P.416部分および
「幽霊山伏」P.155部分に、
相当量の脱落が見られます。
創元推理文庫の
P.48「何となく気がかりな…」から
P.49「…お見受けいたしましたが」までの
計17行、恐らくは原稿用紙1枚分が
まるまる欠落しているのです。
そのため、座を外して
時間がたっている音羽屋を心配した台詞
「音羽屋さんは、いったい、
 どうなすったんでしょうねえ」

のあとに続く、
「はい、あの、わたくしはすこし、
 お頭がふらふらいたしましたゆえ、
 風に吹かれておりました」
は、
音羽屋以外の
誰かが答えているのですから、
前後が合わなくなっています。
落ちた17行がなくても
筋書きに大きな影響は与えないのですが
作者・横溝が書いた文章が
欠落していいはずがありません。

初出の際にあったものが、
その後の改稿で削られたものかとも
思いましたが、
「完本」第一巻の巻末解説には、
本作品について
「大きな改変はなかった」と
言及しているのです。
編集ミスによる脱落であることは
間違いないでしょう。
「完本」は税込みで一冊4,950円と
高価であり、
しかも「完本」と銘打っている以上、
見過ごせない重大事故です。
恐らくは2003年に出版した
「幽霊山伏」の段階で欠落し、
「完本」がそれを踏襲したためと
思われます。

「完本」以外にも、
「死仮面完全版」(絶版中)や
「合作探偵小説コレクション」
「菊水兵談」など、
貴重な横溝作品を出版してくれている
春陽堂書店には、
ただただ感謝の念しかないのですが、
この一件は残念で仕方ありません。
重版以降、訂正されていることを
望みます。

(2024.3.22)

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(2024.4.6)

〔「名月一夜狂言」創元推理文庫〕
羽子板娘
名月一夜狂言
戯作地獄
生きている自来也
出世競べ三人旅
鶴の千番
春色眉かくし
彫物師の娘
春宵とんとんとん
狐の裁判
当り矢
風流女相撲
たぬき汁
遠眼鏡の殿様
呪いの畳針
ろくろ首の女
初春笑い薬

〔「完本 人形佐七捕物帳一」〕
羽子板娘
謎坊主
歎きの遊女
山雀供養
山形屋騒動
非人の仇討
三本の矢
犬娘
幽霊山伏
屠蘇機嫌女夫捕物
仮面の若殿
座頭の鈴
花見の仮面
音羽の猫
二枚短冊
離魂病
名月一夜狂言
螢屋敷
黒蝶呪縛
稚児地蔵

〔「幽霊山伏」出版芸術社〕
山雀供養
山形屋騒動
三本の矢
犬娘
幽霊山伏
名月一夜狂言
振袖幻之丞
漂流綺譚
からくり御殿
お化小姓
いろは巷談
清姫の帯
笛を吹く浪人
殿様乞食
お化祝言

〔人形佐七捕物帳はいかが〕

〔横溝ミステリはいかが〕

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