「恐ろしい手紙」(グロラー)

探偵小説の魅力は探偵のキャラクターの魅力

「恐ろしい手紙」
(グロラー/垂野創一郞訳)
(「探偵ダゴベルトの功績と冒険」)
 創元推理文庫

「探偵ダゴベルトの功績と冒険」

相談に訪れたグラハト嬢は、
紳士詐欺師・フェルト博士から
強請られていることを
打ち明ける。
かつて差し出した、
演説依頼の親しげな語りかけで
書かれた手紙を、
不倫の証拠として
利用されたのだ。
探偵ダゴベルトは
策略を練って…。

先日取り上げた「奇妙な跡」の作者・
グロラーによる
探偵ダゴベルト・シリーズの一篇です。
「奇妙な跡」では
タイム・パフォーマンスが
最高であるという一面で
探偵ダゴベルトの魅力を記しましたが、
本作品でもやはり味わいどころは
「ダゴベルトの魅力」なのです。

〔主要登場人物〕
ダゴベルト・トロストラー

…私立探偵。産業クラブ副会長。
アンドレアス・グルムバッハ
…産業クラブ会長。ダゴベルトとは
 家族同然の交際をしている。
ヴィオレット・グルムバッハ
…アンドレアスの妻。ダゴベルトに
 悩みを抱えている友人を紹介する。
ケーテ・グラハト
…ヴィオレットの友人。
 ヴィオレットと同じく
 かつては舞台女優だった。
 強請られていることを打ち明ける。
オスカル・フェルト
…紳士詐欺師。元弁護士だったが、
 不正により資格を剥奪され、
 身を落とす。ケーテを
 かつての手紙をもとに強請っている。
ヴァインリヒ博士
…上級警部。ダゴベルトとともに
 事件解決にあたる。

本作品の味わいどころ①
非警察事案を処理するダゴベルトの魅力

「奇妙な跡」では、
警察には解決できそうにない難事件を
見事スピード解決した
ダゴベルトですが、今回の事件は
非警察事案とも呼ぶべきものです。
恐喝の現行犯で逮捕しても、
手紙が暴露されると
ケーテは身の破滅となるからです。
警察(だけ)では対処のできない
事案さえも見事に解決する
ダゴベルトの手腕を
まずはしっかり味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
法を守って正義を守るダゴベルトの魅力

非警察事案となれば、
超法規的処置に出る探偵もいます。
今回のように
手紙が恐喝の種となっている事件は、
ポーの「盗まれた手紙」を
思い出すのですが、
そちらは探偵デュパンが容疑者宅に
不法侵入し(このときは警察も
何度となく不法侵入しているのだが)、
盗まれた手紙を盗み返すという
荒技に出ているのです。
そのような「法を犯して
正義を守る」ことを
ダゴベルトは潔しとしません。
法を犯さず合法的な手段で
難事件を見事に解決する
ダゴベルトの姿勢を
次にじっくり味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
急がない!策略家探偵ダゴベルトの魅力

警察が扱えない事件を、
法を犯さずに解決するとなると、
よほど入念な作戦が必要となります。
「奇妙な跡」とは異なり、
今回のダゴベルトは
スピード解決を避け、
長期戦を挑むのです。
その方法は何と恐喝者フェルトを
自らの秘書として
雇い入れるというもの。
それによって何が起きるか?
ぜひ読んで確かめてください。
時間をかけるべきときは
じっくり時間をかける、
策略家としてのダゴベルトの魅力こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。

探偵小説の魅力は
探偵のキャラクターの
魅力でもあります。
デュパンもホームズも、
バーのヴァルモンも、
フットレルの「思考機械」も、
オルツィの「隅の老人」も、
モリスンのヒューイットも、
そして明智小五郎金田一耕助も、
他にはない個性的な探偵なのですが、
このダゴベルトもまた
個性の際だった探偵であり、
それが作品の魅力となっているのです。
ぜひ探偵ダゴベルトの魅力を存分に
味わっていただきたいと思います。

(2024.4.26)

〔「奇妙な跡」グロラー〕

〔「探偵ダゴベルトの功績と冒険」〕
上等の葉巻
大粒のルビー
恐ろしい手紙
特別な事件
ダゴベルト休暇中の仕事
ある逮捕
公使夫人の頸飾り
首相邸のレセプション
ダゴベルトの不本意な旅
 解説

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