「魔弾の射手」(高木彬光)

そして「魔弾の最後の一発」は誰を射貫くのか?

「魔弾の射手」(高木彬光)角川文庫

歌劇のチケットとともに
神津恭介に届いた殺人予告。
殺人鬼「魔弾の射手」が
そこに現れるのだという。
劇場におもむいた神津は、
舞台上でオペラ歌手・
水島真理子が
「デア、フライシュッツ
(魔弾の射手)」と叫んで
失神するのを目撃する…。

「魔弾の射手」。
ドイツの作曲家・ウェーバーによる
三幕のオペラです。
射手の望むところに必ず命中するが、
最後の一発は悪魔の望む箇所へ
命中するとされる
「魔弾」伝説をもとにしたその筋書きが、
本作品の下敷きとなっています。
「魔弾」とは何か?
「魔弾の射手」とは誰なのか?そして
「魔弾の最後の一発」は誰を射貫くのか?
高木彬光の生み出した天才的探偵・
神津恭介が、その謎に挑みます。

〔主要登場人物〕
水島真理子

…「カルメン」主役を演ずるオペラ歌手。
 魔弾の射手に襲撃されるが軽傷。
松原千秋
…ドン・ホセ役のオペラ歌手。
木下薫
…オペラ歌手。
宮下孝次
…オペラ歌手。
相原まゆみ
…若手スター映画女優。
原晋作
…ヴァイオリニスト。第三の犠牲者。
楠田圭子
…オペラ歌手。
 倒れた水島の代役をこなした。
大垣忠則
…歌劇団マネージャー。
南條勝彦
…元子爵だが、没落せずに
 勢力を保っている。第四の犠牲者。
清野静男
…音楽批評家。
倉橋優作
…神津が招かれたオペラを
 途中退席した不審な人物。画家。
 第一の犠牲者。
長田雄吉
…水島真理子の親戚。青森在住。
 第二の犠牲者。
川崎治夫
…かつて上海で
 魔弾の射手に殺害された男。
川崎弘夫
…治夫の弟。
 魔弾の射手の件で神津を訪問。
川崎康子
…治夫・弘夫の妹。
今泉信蔵
…闇成金。行方不明者であり、倉橋の
 死体の身替わりである線が浮上。
村岡警部柳沢博士
…神津恭介がかつて手がけた事件の
 捜査関係者。
江本警部補
…弘前警察署捜査主任。
 永田雄吉殺害の件で神津を拘束。
石川刑事秋田刑事…警視庁刑事。
長谷川課員…警視庁鑑識課員。
中里警部補…捜査一課主任。
松下英一郎…警視庁捜査一課長。
松下研三
…英一郎の弟。探偵小説作家。
 神津恭介の助手的存在。
神津恭介
…二十代にしてすでに名探偵。
 美青年。ピアノの名手。

本作品の味わいどころ①
悪魔の殺人鬼「魔弾の射手」

今回、神津恭介が相手にするのは
謎の殺人鬼「魔弾の射手」。
それも殺人請負業。
戦時中の上海で暗躍し、
戦後日本に帰国し、
活動を再開したという設定。
正体不明。
何と殺人予告まで出してしまう
恐怖の殺し屋。
第一の殺人では
倉橋殺しと真理子襲撃を相次いで行い、
第二の殺人では足跡を残さずに
殺害現場を立ち去るなど、
煙のような存在なのです。
しかも中盤を過ぎたところで
殺人鬼はなんと神津にまで
銃口を向けるという大胆さ。
まるでジュヴナイル作品のような
展開なのです。
この、謎の殺人鬼「魔弾の射手」の正体を
推理することこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
犯罪を彩るトリックの数々

謎の殺人鬼による連続殺人事件は、
一歩間違えばジュヴナイルの世界と
化してしまうのですが、
そこにはしっかりとしたトリックが
設定されているのです。
「魔弾の射手」のような
禍々しい醜名を戴く犯罪者は、
乱歩作品のような
化け物キャラ的存在の場合もあれば、
横溝作品のように
「隠れ蓑」的設定の場合もあるのです。
つまりはそれ自体がトリックなのです。

さらに本作品では
第一の殺人が「顔のない死体」
(顔が判別不能であるだけでなく、
指まで切断されている)、
第二の殺人が「雪の密室」
(魔弾の射手の足跡がない!)と、
探偵小説における
王道的トリックが用いられており、
読み手を唸らせる仕掛けが
多数用意されているのです。
この、犯罪を彩るトリックの数々を
解き明かすことこそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
「推理機械」神津恭介の恋愛

さらに本作品は、
神津恭介の恋愛が描かれている点が
貴重であるといえます。
名探偵は冷静沈着であるためか、
女性に熱くなることがないのでしょう。
横溝の金田一耕助も
女性に対して恋慕の情を見せるのは
「獄門島」と「女怪」の二作品のみ、
乱歩の明智小五郎は
夫人となる文代と出会う
「道化師」ぐらいです。
美貌のオペラ歌手・水島真理子に
恋心を抱いたことから、
推理の切れ味が鈍ってしまう神津恭介。
まだ二十代であり、
当然と言えば当然です。
天才的探偵といえども
やはり人間なのです。
この、「推理機械」神津恭介の
恋愛の行方を愉しむことこそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

しかしながら、これも筋書きに
最後の大どんでん返しを
つくり上げるための
仕掛けの一つとなっているのです。
さらには冒頭に記したように、
「魔弾」とは何か?
「魔弾の射手」とは誰なのか?そして
「魔弾の最後の一発」は誰を射貫くのか?
味わいどころ豊富なミステリとして
仕上がっています。
ぜひご賞味ください。

※「ぜひご賞味ください」と
 書きましたが、現在入手困難です。
 本作品は高木の
 角川文庫収録作品の中でも
 昭和59年という
 比較的遅い刊行だったためか、
 あまり流通しないままに
 平成の大量絶版を迎えたことが
 原因と思われます。

(2025.5.9)

〔関連記事:高木彬光作品〕

「刺青殺人事件」
「妖婦の宿」
「わが一高時代の犯罪」

〔高木彬光の本はいかが〕

M.によるPixabayからの画像

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