「二枚短冊」(横溝正史)

人形佐七捕物帳015

読み手は静かに悪者が成敗されるのを待つだけ

「二枚短冊」(横溝正史)
(「完本 人形佐七捕物帳一」)
 春陽堂書店

「完本 人形佐七捕物帳一」

ある夏の夜、二階の窓から
侵入しようとした盗人。
辰がその手を捕らえるが、
それは切り落とされた
女の左腕であった。その腕には
梅の花札が彫られてあった。
そして「長く家宝になし候へ」との
達筆の走り書きが。
それを見た佐七は…。

横溝正史
人形佐七捕物帳第15話です。
こともあろうに人形佐七宅に
忍び込もうとした泥棒、
その腕を捕らえたと思えば
引っこ抜けてくる。
それは切断された女の腕、
しかも花札の刺青。
ところが佐七は走り書きを見て
笑い出すのです。

【捕物帳〇一五「二枚短冊」】
立花靭負
(ゆきえ)
…お玉が池の裏長屋に住む
 人の良い浪人。四十二、三歳。
「お高祖頭巾の女」
…靭負の懐を狙った謎の女。
 靭負に片腕を切り落とされる。
花札お梅
…東両国の見世物興行で
 人気の上がっている女軽業師。
 腕には松の花札が刺青されている。
粂寺左仲
…嫌われ者の浪人。
 龍造寺大和守の元家臣。
犬塚春之丞
…龍造寺大和守の家臣。佐七宅に
 置かれていた「女の腕」を持ち去る。
辰五郎・豆六…佐七の乾分。
お粂…佐七の女房。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
切り落とされた「女の腕」の謎

辰が引っこ抜いたのは女の腕。
冒頭からおどろおどろしさ満点…、
と思いきや、
どこかコミカルな進行です。
佐七が笑い出すくらいですから。
それもそのはず、
佐七は誰がそんな悪戯をしたのか、
見当がついていたのです。

しかし、その腕が誰のものなのかが
謎なのです。
花札の「梅よろし」の短冊の彫られた腕。
そうそうあるものではありません。
ここでも佐七は
見当がついていたのです。
が、佐七が見当をつけた
女軽業師・花札お梅には、
なんと「松よろし」の短冊の刺青が。
しかも腕はしっかりついている!
この謎を佐七が見事に解き明かします。
その「謎」を、
まずはしっかり味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
粋な飲んだくれ浪人立花靭負

佐七宅に夜遅く「女の腕」を届けたのが
浪人・立花靭負であれば、
その腕を女から切り落としたのも
立花靭負。
この男、貧乏長屋に住み込み、
金が入れば酒浸りという
困った浪人なのです。
とんでもない男だと思いきや…、
なかなかいい味を出している男なのです
(人形佐七捕物帳の準レギュラーに
なってもいいくらいの好人物なのですが
どうやらこのエピソードのみの
登場のようです)。
この粋な飲んだくれ浪人・
立花靭負の魅力を、
次にじっくりと味わっておきましょう。

本作品の味わいどころ③
実は単純明快な勧善懲悪物語

謎が謎を呼ぶ…、と思いきや、
実は単純明快な勧善懲悪物語です。
悪役も明確で、
謎解きの要素はまったくありません。
読み手は静かに悪者が成敗されるのを
待つだけなのです。
この単純明快さこそが
時代物の特徴です。
十分に堪能しましょう。

例によって八方丸く収まるのも
時代劇の特徴です。
欲を言えば片腕を切り落とされた
お梅なる女性にも何らかの福の到来が
欲しいところですが、横溝は
「こうなると、腕の一本ぐらい
 斬り落とされても、むしろ
 幸福だったといわねばなるまい」
と、
いつもになく
軽く済ませてしまっています。
さしもの横溝も、
妙案は浮かばなかったのでしょうか。
それはともかく、
なかなかに愉しめる逸品です。
ぜひご賞味あれ。

(2018.8.12)

〔「完本 人形佐七捕物帳一」〕
羽子板娘
謎坊主
歎きの遊女
山雀供養
山形屋騒動
非人の仇討
三本の矢
犬娘
幽霊山伏
屠蘇機嫌女夫捕物
仮面の若殿
座頭の鈴
花見の仮面
音羽の猫
二枚短冊
離魂病
名月一夜狂言
螢屋敷
黒蝶呪縛
稚児地蔵

〔春陽堂書店「完本 人形佐七捕物帳」〕

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〔横溝時代物ミステリはいかが〕

おどろおどろしい世界への入り口
Peter DavidによるPixabayからの画像

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