「猫町」(萩原朔太郎)②

「若い人」と「明治の文学」との距離を縮める試み

「猫町」(萩原朔太郎)
(絵:しきみ)立東舎

以前取り上げた
夢野久作「瓶詰地獄」
(絵:ホノジロトヲジ)と同じ
立東舎からのシリーズの一冊です。
本書も楽しく読むことができました。
こちらは「しきみ」という
イラストレーターが
画を担当しています。

本作品は
神経障害を持つ詩人の見た幻影が
テーマとなっています。
しきみの描く
幻想的なイラストによって、
原文の病的なイメージが薄れ、
メルヘンチックな衣装をまとって
作品がリニューアルしたような
錯覚を受けます。

本書は「瓶詰地獄」とは異なり、
見開きの右頁に本文、
左頁にイラストという
体裁になっています。
10~20行の本文に対して
イラスト1点が現れるしくみです。
これが作品理解に
極めて有効に機能しています。

もともと本作品は
萩原朔太郎の独特な表現が
理解を難しくしていた
側面がありました。
「同じ一つの現象が、
 その隠された「秘密の裏側」を
 持っているということほど、
 メタフィジックの神秘を
 包んだ問題はない。
 私は昔子供の時、
 壁にかけた額の絵を見て、
 いつも熱心に考え続けた。
 いったいこの額の景色の裏側には、
 どんな世界が秘密に
 隠されているのだろうと。
 私は幾度か額をはずし、
 油絵の裏側を覗いたりした。
 そしてこの子供の疑問は、

 大人になった今日でも、
 長く私の解きがたい謎になってる。」

そうした難解な文章が続くのですが、
短く区切り、そこにイラストが
添えられているだけでも、
若い人にとっては
ほっとするのではないでしょうか。

現代の若い人達にとって、
明治の文学は
ますます遠いものになってきています。
いくつかの出版社から、
その距離を縮めるのに役立つ
試みが行われていることは
喜ばしいことです。

一つは現代語訳。
芥川や中島敦らの作品が
「現代語訳」されて出版されています。
(理論社から出版されている
「現代語訳名作シリーズ」。
口語体である原文を、
さらに「現代語訳」するという快挙!?)

もう一つの流れが
イラストによる文学のデコレーション。
本書を含む立東舎による
「乙女の本棚シリーズ」です。
「猫町」「瓶詰地獄」「檸檬」
「押絵と旅する男」「女生徒」
「葉桜と魔笛」というラインナップは、
どう考えても乙女の本棚には
並ばないはずの作品ばかりです。
それが売れているという現実。
若い女の子が
萩原朔太郎夢野久作
文庫本を片手に街を歩く姿が、
いつの日か見られるのでしょうか…。

(2018.9.5)

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