「公共伏魔殿」(筒井康隆)

ああ、そういえば大手芸能プロダクションで…

「公共伏魔殿」(筒井康隆)
 (「暴走する正義」)ちくま文庫

公共放送センターの集金人に対して
受信料の支払を拒否した「おれ」。
勤務先を口にして
立ち去った集金人に対して、
「おれ」は言いしれぬ恐怖を覚える。
翌日出勤した「おれ」は、
放送センターでの
点検業務を言い渡される…。

以前紹介したのは、
忍び寄る戦争の恐怖を描いた
SF作品を集めたアンソロジー
「あしたは戦争」でした。
こちらは
管理社会の恐怖を描いた作品集です。
ここでも一頭地を抜いているのは
筒井作品です。

本作品では、
テレビ放送の影響力の強さを
思いきりデフォルメして描いています。
受信契約者名簿は
役場の住民名簿よりも詳しい。
集金人でさえ妾を囲える待遇。
出入りの業者はみな
放送センターに最大限の気を遣う。
タレントたちの運命を
握っているのはセンター職員。
彼等は係長クラスにさえ
肩をもんだり靴を磨いたり。
でも、
「おれ」が驚愕するのはその先です。

スタジオ脇の廊下の暗がりで
パンを食べている新人タレント。
あまりの低ギャラのため
まともな食事すらできないのです。

政見放送の実施を懇願する
内閣官房長官に対し、
高飛車な態度であしらう放送局長。
公共放送センターの権力は
政治以上なのです。

それだけではありません。
地下7階には
裸の踊り子たちを調教する
「演技指導室」、
地下8階の、ぽっと出のタレントを
飼い殺しにするいくつもの小部屋。
センターが苦労して
発掘したタレントが、
お払い箱となったあとに
民放に使われるのも癪だし、
クビにして干したりすると
芸能誌がうるさいため、
隔離監禁して文字通り飼い殺しにする。
凄まじいまでのデフォルメです。

これは作者自身がテレビ放送
もしくはマスコミに対して
なにか不満を抱いていたか、
あるいはこの公共放送センターの
モデルとなっているN○Kに
大きな遺恨があったのか。

本作執筆は1967年。
N○Kの黄金期だったはずです。
それから半世紀。
そうした勢いはN○Kにはもはやなく、
何かにつけて攻撃されている
今の姿からすると、
本作品はいささか
ピントはずれの感があります。

しかし、ふと考えると
まったく時代遅れでは
ないような気もします。
ああ、そういえば何年か前、
大手芸能プロダクションで…。
権力は放送局そのものではなく、
制作プロダクション側に
移行したということでしょうか。

(2018.11.10)

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