「時をかける少女」(筒井康隆)

SFといえば少年。それが「少女」!。

「時をかける少女」(筒井康隆)角川文庫

放課後の理科室。
ただよう甘い香り。
この香りを私は知っている
―そう感じたとき、和子は
不意に意識を失い
床に倒れてしまった。
そして
目を覚ました和子の周囲では、
時間と記憶をめぐる
奇妙な事件が
次々に起こり始めた…。

これまで取り上げた筒井康隆
傑作SF「家族八景」「七瀬ふたたび」
でも、筒井康隆といえば
本作品の方が
有名なのではないでしょうか。

私は本書を中学生のときに一度購入し、
さらに高校生の頃に
映画化されたのを機に買い直し、
何度も読みました。
引っ越しの際に処分したのですが、
欲しくなって
古書店で買い直すという始末。
表紙はいろいろな
バージョンがあったのですが、
迷わずこれ、
原田知世が写っている「映画版」です。

私の少年時代は、
ちょうどSFジュブナイルの
全盛期でした。
NHKの少年ドラマシリーズ
(確か平日の18:00台放送)でも、
SFものが多く取り上げられていた
記憶があります。
あの頃、眉村卓の
「ねらわれた学園」「なぞの転校生」
そして
光瀬龍の「その花を見るな!」などを
熱中して読んだ記憶があります。

その中でも
本書は異彩を放っていました。
それはタイトルに表れているように
「少女」が主人公だからなのです。
当時、SFといえば少年。
少年といえばSF。
SFの主人公は男の子。
それは空が青い、雪は白い、
というのと同じくらい
当たり前なことだったのです。
それがなんと「少女」!。

筋書き自体は
よくあるタイムスリップものです。
似たような作品は数多く存在します。
でも、少女が主人公で、
表題に臆面もなく表現されている点、
そしてグループでつるんで
冒険するのではなく
(サポートする男子はいるものの)、
重要な部分のほとんどを
主人公の女の子一人が体験し、
解決していく点において、
本作品は多くのSFジュブナイルの中でも
際立った存在なのです。

こうしたSFジュブナイルですが、
21世紀に入り、かつての傑作群は
忘れ去られようとしています。
現代の作家の作品は
ライトノベルという異質のものに
変化してしまいました。
しかし、それらは現代においても
決して色褪せてはいません。
良質の読み物として
見直されてしかるべきと考えます。

※私は原田知世主演の映画しか
 知らなかったのですが、
 現在までに2作品、
 他にアニメ作品が創られていました。
 時代が進むのは速い。

(2018.11.10)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA