「皿と紙ひこうき」(石井睦美)②

では、由香はこのあとどうするのか?

「皿と紙ひこうき」(石井睦美)講談社文庫

前回、「皿型」と「紙ひこうき型」として、
ふるさとに残る生き方と
外に出る生き方について書きました。
ふるさとを大切にする
「皿型」人間がいなければ、
今騒がれている「地方消滅」は
現実のものとなるでしょう。
しかし自分を生かせる場が
ふるさとになければ
「紙ひこうき型」にならざるを得ないのも
確かです、と。

本当に難しい問題だと思います。
かつて10年間、
中高一貫教育校に勤務し、
高校生の就職・進学状況も
つぶさに見てきました。
こと就職に関しては、積極的に
県外就職を希望する生徒よりも、
地元に仕事がなく
(あっても条件が悪い)ために
県外を希望するという生徒の方が
多いのです。
いわば望まざる「紙ひこうき型」です。

人口減に悩む当秋田県も、
「ふるさと教育」を小中学校に徹底させ、
ふるさとの良さを知り、
ふるさとで活躍する
人材育成に取り組んでいます。
しかし、
「総合的な学習の時間」で
ふるさと教育を行うほど、
理解の速い子どもは
「秋田県の将来の見通しは暗い」ことと、
「秋田県には自分の力を生かせる仕事が
ない」ことに気付いてしまうのです。
そして進学校から大学進学、
都会で就職し、地元に帰らない、
という悪循環に陥っています。

子どもたちを地元に引き留める役目は、
本来学校が担うべきものでは
ないと思うのです。
行政がしっかりとした指針を示し、
若者の働く場を整えることこそが
一番の対策です。
自然環境が美しいだの、
人情味に厚いだの、
伝統文化に溢れているだの、
そうした長所をいくら並び立てても、
自分の働く場所が確保されなければ
決して「住みよい」とは
いえないはずです。
また、都会と比べて
アルバイト並みの本県の賃金では、
地元に戻ろうという気にも
ならないでしょう。

本作品の由香の父親は「皿型」。
これは長男であり、
家業を継ぐ必要があったから
当然なのかも知れません。
一方、由香の叔父は次男であり、
家業を継げない以上は、
外に生きる道を求めたのも、
これもまた当然なのでしょう。

では、由香はこのあとどうするのか?
いろいろなことが想像できます。
女の子である以上、
地元で生きるとすれば
陶芸家の婿をもらうことになります。
でももしほかに好きな人ができたら?
由香の母は
自分の家を捨てて嫁いできた
「紙ひこうき型」です。
このまま父のように
「皿型」の人生を歩むのか、
それとも母のように
「紙ひこうき型」に変わるのか、
やはりいろいろなことを
考えさせられます。

(2018.11.12)

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