「ガリバー旅行記」(スウィフト)③

ラピュタは天空に在るも強くなかった

「ガリバー旅行記」(スウィフト/山田蘭訳)角川文庫

先日来のガリバー旅行記、
第3話は盛りだくさんです。
なにしろ「ラピュタ、バルニバービ、
ラグナグ、グラブダブドリブ、
そして日本渡航記」。
計5カ国を渡り歩きます。

一つめのラピュタ国は
ご存じジャパンアニメの名作、
「天空の城ラピュタ」のモデルです。
アニメは飛行石なる神秘の鉱石が
動力源でしたが、
本元は磁石の力で浮いています。
このラピュタ国、
進んだ科学力をもつものの、
地上の領地バルニバービを
完全屈服させるには至っていません。
飛行島を降下させ、
街を押しつぶすと脅すものの、
それをすれば島の下部岩盤が損傷し、
飛行能力を失う可能性があるためです。
強大な科学力をもっていても、
必ずしも優位に立てるとは限らない、
それはアニメと共通しています。

二つめのバルニバービ島。
ここの住人は
ひたすら研究ばかりしています。
しかも実現不可能なことを延々と。
「人間の排泄物を元の食物に戻す研究」
「氷を焼いて火薬をつくる研究」
「全盲者が触覚と嗅覚を使って
色を識別する研究」…。
これらに比べたら、
どこかの国のSTAP細胞の研究は
まだましです。

島内の言語研究棟。
ここでは言葉を
いかに短くできるか研究しています。
それは「名詞だけで
文章をつくる」というもの。
それは
今の日本の若者が取り組んでいます。
文章で会話するのが下手。
名詞とせいぜい擬音語の羅列、
それに絵文字を加えて。
架空の物語中での研究が、
300年の時空を飛び越え、
現代日本で開花している現状を、
泉下のスウィフトさんはどう見るか。

三つめのグラブダブドリブは
魔術師と呪術師の島。
その一族の族長は
死者を召喚できる能力を持っています。
ガリバーは族長にねだって、
ヨーロッバの偉人たちを
次々と召喚して貰います。
ホメロスとアリストテレスに始まり、
歴代のローマ皇帝、
そしてその料理人まで。
それぞれに語らせながら、
栄光あるローマ帝国を
巧みにこき下ろします。
ここまではどちらかといえば
母国英国の体制批判だったのですが、
ここに来て全ヨーロッパを
批判の的に据えたかのよう。
やはり作者スウィフトは
単なる人間嫌いだったのでしょうか。

最後の日本は単なる通過点。
記述は3ページ程度。
悪名高き「踏み絵」が登場しています。
300年前の英国から見れば、
ジャポンはラピュタなどの架空の国と
大差なかったのでしょう。

(2018.11.29)

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