「ガリバー旅行記」(スウィフト)④

ガリバー、ついに理想郷に到達せり

「ガリバー旅行記」(スウィフト/山田蘭訳)角川文庫

いよいよガリバー4度目の航海。
第4話は「フウイヌム国渡航記」。
ここでは馬のような生物フウイヌムが
社会をつくっています。
そしてヒトはヤフーと呼ばれる
汚らわしい動物として
フウイヌムの支配下に
置かれているのです。

ガリバーはやがて
このフウイヌムたちの生き方に
理想を見いだします。
争いや諍いのない社会、
不正や悪の存在しない健全な社会、
ありとあらゆる美徳をもつ社会、
友情と博愛に溢れる温かい社会、
節制を守り勤勉であり
清潔を旨とする社会、
並べ上げれば、
まさにユートピアです。

そしてガリバーは本国へ帰国した後も、
人間を「ヤフー」と呼び、嫌悪する。
妻や子と同居することにも
抵抗感を覚える。
人間嫌い、ここに極まれりです。

でも、
ちょっと考えなくてはなりません。
理想郷は本当に理想郷なのでしょうか。
正しい人間だけで構成される社会は、
よりよい社会とは
言い切れないのではないかと思うのです。
弱いものも強いものもいる。
だから弱いものを
助けなければならないことを知る。
正しいものも正しくないものもいる。
だから正しいことの価値が
正当に認識される。
清いものも汚いものもある。
だからより清くあろうとする心が
芽生える。

アフリカの地に
近代農法を持ち込んだところ、
その7割が害虫により壊滅した、
と「アフリカのいまを知ろう」
(山田肖子編著・岩波ジュニア新書)
にありました。
日本の水田や米国の農場など、
単一種が広大な面積に
整然と作付けされている姿には
秩序を感じるかもしれません。
しかしそれは周囲の変化に対して
きわめて脆弱です。

多様な動植物が
相互に依存し合い
連帯しあっている状態を、
生態学者は「豊穣」と表現します。
我々の社会も同様で、
様々な考え方や価値観を持った人間が
共存する社会こそ、
自由が存在する
豊かな社会なのではないかと思います。
たとえそのことにより、
不正が生まれたり
悪がはびこる力も生まれたとしても、
それを克服する力も
そうした社会から
同時に生み出されるはずです。

私たちの現実社会を見渡せば、
多種多様な主義・思想・宗教・民族が
対立しあっている状況です。
お互いに認め合い、
受け入れる寛容さを持ち、
共存しようと努力する社会こそ、
「理想」なのではないでしょうか。
私たちの子どもたちが暮らす
未来の世界が、
そういう世の中であることを願います。

(2018.1.29)

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