原民喜は純粋に子どもたちのために本作品を書いた
「ガリバー旅行記」(原民喜)講談社文芸文庫
前回まで4回連続で
スウィフトの「ガリバー旅行記」を
取り上げました。
これで5回目?第5話があったの?と
思われるかも知れませんが、
本作品の作者は原民喜です。
それにしても原民喜が
ガリバーを書いていたとは!
「夏の花・心願の国」という
広島原爆体験を綴った作品を
書いている作者のイメージと
まったく重なりませんでした。
カバー裏の紹介文には
「一九五一年三月、
原民喜鉄道自殺。
死の直前に書かれた
「ガリバー旅行記」再話。
〈ヒロシマ〉を所有する
原民喜の悲痛な
「ガリバー旅行記」。」という
記載がありました。
もしかしたら原作の一部を
広島原爆の物語に
置き換えたものかも?
本書のどこにもスウィフトの名前が
記載されていないのはそのため?と、
いろいろ考えたのですが、
読んでみると中身はまったく同じです。
「夏の花・心願の国」に収録されている
一連の作品との関連を
考えながら読んだのですが、
私にはあまりそうしたものは
感じられませんでした。
少なくとも「悲痛な」作品には
なっていません。
書かれたのが
鉄道自殺の直前であることや、
他の作品の多くが
「悲痛な」戦争の題材を
扱ったものであることから、
編集者が自己の思い入れを
盛り込んだのではないかと
推察されます。
また、
そういう文学的価値を
見いだせなければ、
講談社文芸文庫という
かなり固いところから
出版されることは
なかったでしょうから。
ただし、
山田蘭訳のガリバーと比較すると
筋書きにはかなりの省略があります。
特に風刺や体制批判の部分は
ほとんどカットされています。
純粋な「翻訳」ではなく、
いわゆる「翻案」というものなのでしょう。
そのために原作者スウィフトの名を
あえて外したものと考えられます。
そう考えると、
ヒロシマ原爆どうのこうのではなく、
作者は純粋に子どもたちのために
本作品を書いたと考えるのが自然です。
焼け跡となった戦後日本の子どもたちに、
心の支えとなる本を与えたいという
願いを込めて編んだのだと
私は思います。
だからといって、
本書を現代の小学生に薦めるのも
どうかと思います。
敗戦直後の子どもたちの目線に立った
原民喜の心情を、
現代の大人が
じっくりと味わうというのが、
本書の正しい読み方といえるでしょう。
(2018.11.30)
【青空文庫】
「ガリバー旅行記」(原民喜訳)
※青空文庫は、スウィフトの作品を
原民喜が翻訳したという
立場をとっています。