「押絵と旅する男」(江戸川乱歩)②

文学とCGイラストの幸福な邂逅

「押絵と旅する男」(江戸川乱歩)
(絵:しきみ)立東舎

先日本作品を取り上げ、
現代こそ本作品が
最も受け入れられやすい
時代なのかも知れないと書きました。
本書こそ、
それを具現化したものでしょう。
乙女の本棚シリーズの一冊です。

驚くべきは、
原文のそこここに立ちこめていた
乱歩臭が一切消えていることです。
純粋なヤングアダルト向け童話といった
風情となっています。
これなら乙女にも
受け入れられるのでしょう。

初読以来、
「押絵」をそのまま押絵として
脳内で視覚化して認識してきました。
しかし、別にリアルな押絵を
イメージする必要はないのです。
現代では押絵など
滅多に見る機会もないのですから。
大切なのは二次元ということなのです。
昭和2年の二次元が押絵なら、
平成30年の二次元は
CGイラストにほかなりません。

特筆すべきは
繊細な構図と豊かな色彩感でしょう。
美少女がなんとも細々とした
装飾品を身に付け、
色艶やかな振り袖をまとっています。
押絵では絶対に
再現できないものですので、
乱歩の意図したヴィジョンとは
異なるはずです。
しかし、
この強烈なイラストを見てしまうと、
こちらの方が
説得力を持っているように思えます。

さらに、
男女の対比が鮮烈です。
男の方は
黒い三つ揃いのスーツ姿の老人であり、
これが美少女と
正反対の印象を与えています。
艶深い黒髪の若さはじける乙女と、
顔には皺の寄った白髪の老人。
紋様も鮮やかな赤の和服と、
地味な黒の洋装。
少女のものと思われる各種の小道具と、
男のものと思われる一個の文机。
見た目には
父親と娘のようであるものの、
寄り添う二人の姿勢と
男のかけた手の位置は、
親子のそれとは明らかに
異なる様子が見事に表現されています。
この男女の明確なコントラストが、
本作品の終末に描かれる
悲哀に結びついているのです。

作品の本質を十二分にくみ取り、
乱歩という特異性と
昭和の時代の古風な彩りを
先鋭な感覚で濾過し、
現代に再現した本書は、
まさに文学とCGイラストの
幸福な邂逅と呼ぶべきものでしょう。

同シリーズの他の作品同様、
中学生に薦めたい一冊です。
でも、
本書を読んだ乙女が
乱歩ファンになってしまったら
どうなのでしょう。
胸を躍らせて彼女の部屋を訪れたら、
本棚には乱歩が並んでいた…。
彼氏はどん引きするのでは…?

(2019.1.12)

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