「一週間」(横溝正史)

狂言殺人、ところが「嘘から出た実」となるのです

「一週間」(横溝正史)
(「悪魔の家」)角川文庫

特種は作るものだ、と
上司から叱咤された
新米記者・慎介は、
知り合いの史郎に
狂言殺人を持ちかける。
相手はバーのマダム・弥生。
いよいよ実行に移され、
慎介は他社をすっぱ抜くが、
やがて本当に
弥生の他殺死体が見つかり…。

狂言殺人をでっち上げ、後日、
男女の悪戯だったという筋書き。
それ自体犯罪なのですが、
特種を得たい慎介と
世間から再び注目されたい
史郎・弥生の利害が一致し、
動き始めてしまいます。
ところが「嘘から出た実」となるのです。

読みどころ①
追い詰められる慎介

実際に殺人事件が
起きてしまったのですから、
真っ先に疑われるのは慎介です。
そして史郎が捕まってしまえば
事が露見してしまいます。
窮地を脱するには
真犯人を捕まえる以外にありません。
ところが史郎からは
計画の齟齬を責められた挙げ句に、
「一週間以内に真犯人を
挙げなければ真相をばらす」と
迫られる始末です。
慎介はとことん
追い詰められるのです。

読みどころ②
事件に優先して描かれる記者のドラマ

事態は慎介の描いた筋書きから
次第に遠ざかります。
それにつれて、
他社をすっぱ抜いた勢いも衰え、
後手後手に回る体たらくです。
若い慎介の焦燥と苦悩は
読んでいて気の毒になるほどです。
つまり本作品は、
事件の謎解きよりも
事件を報道する新聞記者のドラマに
焦点を当てている異色作なのです。

読みどころ②
胡散臭い記者・五百崎の暗躍

ライバル社の記者・五百崎が、
慎介の立ち回る先に現れ、
怪しい動きをしています。
何かしら事件に
関わりがありそうなのですが、
謎に包まれています。
敵か味方か、いや真犯人か。
この五百崎のキャラクターが
素敵です。
そのまま名探偵にして、
シリーズ化してしまっても
いいくらいです。

やはり本作品にも
弱い部分は散見されます。
動機が今ひとつ薄いこと、
慎介の追い詰められ方の
最後の詰めが甘いこと、
真相が簡単に解き明かされること等、
後の長編作品に比べると
どうしても見劣りしてしまうのは
やむを得ないでしょう。

しかし、
それを補って余りあるような
結末が用意されています。
真相はぜひ本作品を読んで
味わっていただきたいと思います。
「鬼火」で作家生活を
再始動させた横溝の、
上諏訪滞在中に書かれた一品、
ご賞味あれ。

(2019.2.10)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA