「ミーナの行進」(小川洋子)①

存在感のある病弱文学空想美少女ミーナ

「ミーナの行進」(小川洋子)中公文庫

家庭の事情で岡山の母親と離れ、
大阪芦屋の伯父の家へと
移り住んだ中学1年の「私」。
そこには1つ年下の
従妹・ミーナがいた。
彼女は色白で美しく、
体がか弱く、
そしていつでも本を愛していた。
ミーナと暮らした1年の年月…。

父親に先立たれ、
経済的事情で預けられた
親戚の家は大金持ち。
そこに一つ違いの従妹がいる。
何か大きな困難が
待ち受けていそうですが、
何も起きません。
「私」とミーナはお互いに信頼し、
その関係は以後もずっと継続します。

現代の作品特有の、
大きな事件が何も起きない物語です。
「私」が芦屋で過ごした1年間を
淡々と描いただけなのです。
しかし、
ミーナの存在には
インパクトがあります。

ミーナは体が弱く、
小学校へは歩いて通えません。
排気ガスが苦手なため、
車にもめったなことでは乗りません。
家で飼っているカバに乗って
通学しているのです。
好奇の目にさらされそうですが、
ひるむことなく、
それがさも当然とでもいうように、
堂々と登校します。

ミーナは小学校6年生にもかかわらず、
すでに川端康成の
「伊豆の踊子」「雪国」「古都」を
読破しています。
それどころか
「フラニーとゾーイ」「阿Q正伝」
「変身」とくるのですから
スーパー文学少女です。
ただし、それを図書館から
借りてくるのは「私」の役割です。

ミーナの趣味はマッチの空箱集めです。
マッチを集めてくれるのは
ミーナが心を寄せる
清涼飲料水の配達員のお兄さん。
それだけでもロマンチックなのですが、
ミーナは、マッチのその
小さな箱に描かれた図柄から
自分だけの童話を
書き紡いでいくのです。
空想の上手な少女なのです。

濃密な1年間が終わり、
「私」は岡山へと帰ることが決まります。
そしてミーナは中学生となります。
カバのポチ子は
それと前後し寿命を迎えたため、
彼女は中学校へは
歩いて通うことに決めます。
「私」がいなくなるため、
彼女は自分で図書館に通います。
置き場所のベッドの下が
満杯になったのと、
マッチをくれていた
配達員のお兄さんも引っ越ししたため、
マッチ集めも見切りを付けます。
そうです。
本作品は語り手「私」の目を通した、
少女ミーナの成長物語なのです。

悲しいできごとのほとんどない、
春の日ざしのような
温かさに包まれた本作品。
中学校3年生に薦めたい一冊です。

(2019.3.1)

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